日々修行346 卵焼きの味の境界線

日本テレビ系列の「秘密のケンミンSHOW」も、その後継番組の「秘密のケンミンSHOW極」も東京と大阪の味の違いは定番のネタで、中でも甘い味付けの卵焼きへは大阪府民の反応は味わいの特徴を示す絶好の話題となっています。

この卵焼きの味については、前身番組の「どっちの料理ショー」でも扱おうとしたことがあるのですが、食べる人の経験と好みが出て、それが評価につながることから“お蔵入り”になっていました。

初めて県民性というか地域性の違いを明らかにするために卵焼きを使ったのは、境界線を探すというテーマでした。関東圏の甘い卵焼きと関西圏の甘くない卵焼きの境界線を探そうという企画でしたが、それは私が体験したことがある地域も含まれていました。

私は新潟県で育ったので、卵焼きは甘い味付けでした。子どもの頃に初めて県境を超えて富山県に行ったときのこと、富山県は関西系の味付けだと聞いていたのに朝食の卵焼きの味は、いつも食べているものと同じでした。新潟県の味は砂糖に醤油で、富山県でも同じ味付けでした。

富山県のあと、石川県の金沢まで足を伸ばして、そこで食べた卵焼きは塩に出汁(だし)でした。そのときの発見は子ども心に残り、大学で東京に出てから地方出身者に会うたびに卵焼きの味について聞いていました。

社会人になってからは仕事や観光などで全道府県に行きましたが、必ず卵焼きを食べるようにして、味の違いを記録していきました。「秘密のケンミンSHOW」がやるようなことをコツコツと調べてきたわけです。

卵焼きの日本海側の味の違いの境界線は富山県と石川県で、富山県が砂糖に醤油、石川県が塩に出汁(だし)の味付けが多くなっています。太平洋側の境界線は愛知県が砂糖に醤油、三重県が塩に出汁で、愛知県と富山県の間の長野県は砂糖に醤油の味付けが基本です。

長野県の東側では卵焼きは、そのまま食べますが、西側では卵焼きの味が薄いと感じたときには醤油をかけるという、東側の人から見たら驚きの食べ方をしています。

卵焼きの味付けは全国に例外地域があって、それぞれ理由があります。京都府と滋賀県は文化的には関西圏ですが、砂糖と醤油の甘い味です。文化的には出し巻き卵の地域なのですが、砂糖が多く消費された京都の影響を受けて、家庭では甘い味が主流となっています。

生まれたところや長く住んでいた地域の影響は味に色濃く出るので、京都府民、滋賀県民であっても塩と出汁という家庭もあって、混在している感はありますが、大きく分類すると甘い味が優勢となっています。

長崎県は全体に甘い味付けで、甘い料理ほど「長崎に近い」、甘さが控えめになると「長崎から遠い」と表現されています。長崎は貿易港で海外から砂糖が持ち込まれ、カステラや金平糖などの菓子文化の影響もあってか、卵焼きも甘い味付けです。

福岡県も甘い味付けで、これは裕福な地域に砂糖が流れてきたことに関係しています。宮崎県と鹿児島県も甘い味付けで、これは奄美のサトウキビから作られた黒砂糖が多く流通してきた歴史と関係しています。

香川県は伝統的な製法が守られている砂糖の和三盆の産地で、そのために甘い味付けの卵焼きです。徳島県は大阪府の影響を受けていて、全体的には塩に出汁の卵焼きですが、香川県に近いところでは甘い味付けも食べられています。

他には山口県と広島県が甘い味付けが主流で、これは福岡県からの流れのようです。私が移住した岡山県は、主流は塩に出汁の味付けですが、移住前に15回も訪れていて、そのときの経験では、ホテルや旅館の朝食の卵焼きは遠くから来る人のことも考えてか、両方の味付けのものが用意されていました。

岡山は地域的には塩と出汁の文化なのですが、店によっても違いがあります。家庭では甘い味付けが多くなっています。私が新潟県、妻が京都府の生まれで、出会ったのが東京で、そのまま甘い味付けの卵焼きを食べています。

ただし、甘い卵焼きであっても出汁が使われていて、ここは食文化の融合という解釈をしています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕