「甲州の“ず”言葉」と呼ばれる独特の方言があります。
山梨の「ず弁」とも呼ばれていて、語尾に「ず」や「ずら」をつけるのは国中弁です。
国中弁の「ず」は「〜しよう」の意味があり、行くことは「行かず」となります。「ずら」は「〜でしょう」の意味で、「いい天気ずら」といった使われ方をします。
国中というのは山梨県の中・西部で、笹子峠より西側の甲府盆地が広がるのが国中地方、東側の急峻な山林が多い郡内地方と一般には分けられています。
郡内弁では「だんべ」や「べ」が語尾につけられます。
今回の話は、現地の方ではなくて、他の地域からきた人の戸惑いのもとになる「ず」のことで、このことを教えてくれたのは横浜出身で、山梨の国立病院の栄養部門のトップで、赴任したばかりのときに経験したことがベースとなっています。
以前にも触れたことがある「酒のまず」は「酒を飲むな」ではなくて、「酒を飲みましょう」という宴席などで飲酒をすすめるときに出る言葉です。
道を尋ねたときに「右いかず、左いかず、真っ直ぐいかず」と言われたら、どう行けばいいのかわからなくなる人もいるでしょうが、これは道を右に曲がって、次に左に曲がって、その後は真っ直ぐに行く」という親切な道案内です。
このことは半分笑い話として伝えられているところもあるのですが、実際に山梨県を巡ったときに、似たような経験をしました。言葉のニュアンスがわかれば、笑い話で済ますことができる、とも感じたものです。
ところが、他の地域では、約束をした日の認識が地元の人と違っているという切実な間違いが起こることもあります。
それは三重県の伊勢志摩がよく例として出されるのですが、岐阜県の飛騨のほか愛知県や富山県の一部などでも使われる、ややこしい地域表現です。
それは「ささって」の存在です。この地域の方との約束をするときには実際の日にちを確認することが必要になってきます。
今日の次の日は「あした」、2日後は「あさって」、3日後は「しあさって」というのが一般的な認識です。しかし、前出の地域では「あさって」と「しあさって」の間に「ささって」が入ります。
つまり、3日後が「ささって」、4日後が「しあさって」となります。漢字では、あさっては明後日、ささっては再明後日となります。しあさっては一般的には明々後日と書きますが、ささってを使う地域の場合には、ささっての次の「しあさって」は「四明後日」となります。
このような地方ルールがわかっていれば、約束の日を間違えることもなくなり、日にちで確認するようにするのですが、今、知っている地域以外でも「ささって」が使われている可能性もあります。
ひょっとすると他の表現があるかもしれないので、いつも会う日を約束するときにはドキドキしてしまいます。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕