「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、指標別に見た活用上の留意点を説明しています。その後半を紹介します。
〔推奨量〕
推奨量は、個人の場合は不足の確率がほとんどなく、集団の場合は不足が生じていると推定されます。対象者がほとんど存在しない摂取量であることから、この値の付近か、それ以上を摂取していれば不足のリスクはほとんどないものと考えられます。
〔目安量〕
目安量は、十分な科学的根拠が得られないため、推定平均必要量が算定できない場合に設定される指標であり、目安量以上を摂取していれば、不足しているリスクは非常に低くなっています。
したがって、目安量付近を摂取していれば、個人の場合は不足の確率がほとんどなく、集団の場合は不足が生じていると推定される対象者はほとんど存在しません。なお、その定義から考えると、目安量は推定量よりも理論的に高値を示すと考えられます。一方、摂取量が目安量未満であっても、不足の有無やそのリスクを示すことはできません。
〔耐容上限量〕
耐容上限量が、この値を超えて摂取した場合、過剰摂取による健康被害が発生するリスクが0(ゼロ)より大きいことを示す値です。しかしながら、通常の食品を摂取している限り、耐容上限量を超えて摂取することがほとんどあり得ません。
また、耐容上限量の算定は理論的にも実験的にも極めて難しく、多くは少数の発生事故事例を根拠としています。これは耐容上限量の科学的根拠の不十分さを示すものです。そのため、耐容上限量は「これを超えて摂取してはならない量」というより、むしろ「できるだけ接近することを回避する量」と理解できます。
また、耐容上限量は、過剰摂取による健康被害に対する指標であり、健康の保持・増進、生活習慣病などの発症予防を目的として設けられた指標ではありません。耐容上限量の活用については、このことを十分留意する必要があります。
〔目標量〕
生活習慣病の発症予防を目的として算定された指標です。生活習慣病の原因は多数あり、食事はその一部です。したがって、目標量だけを厳しく守ることは、生活習慣病の観点からは正しいことではありません。
例えば、高血圧の危険因子の1つとしてナトリウム(食塩)の過剰摂取があり、主としてその観点からナトリウム(食塩)の目標量が算定されています。
しかし、高血圧が関連する生活習慣としては、肥満や運動不足などとともに、栄養面ではアルコールの過剰摂取やカリウムの摂取不足もあげられます。ナトリウム(食塩)の目標量の扱い方は、これらを十分に考慮し、さらに対象者や対象集団の特性も十分に理解した上で決定します。
また、栄養素の摂取不足や過剰摂取による健康被害に比べると、生活習慣病は非常に長い年月の生活習慣(食習慣を含む)の結果として発症します。生活習慣病の、このような特性を考えれば、短期間に強く管理するものではなく、長期間(例えば、生涯)を見据えた管理が重要です。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕






