「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、今後の課題として、策定上の課題について説明しています。
◎策定上の課題
食事摂取基準が参照すべき分野(人間栄養学、栄養免疫学、公衆栄養学、予防栄養学)の研究論文数は、近年増加の一途をたどっています。特に、当該分野の研究分野の論文を扱ったシステマティック・レビューとメタ・アナリシスの増加が目覚ましくなっています。
食事摂取基準の策定作業においても、これらを積極的かつ正しく活用することが提唱されており、数多くの試みがなされています。
ところが、我が国における当該分野の研究者の数とその質は、論文数の増加と食事摂取基準の策定に要求される能力に対応できていないことがあり、近い将来、食事摂取基準の策定に支障を来たすことが危惧されます。
当該分野における質の高い研究者を育成するための具体的な方策が早急に講じられることが求められます。
食事摂取基準の各指標は、摂取不足の回避、過剰摂取による健康障害の回避と生活習慣病などの発症予防を目的に定められています。
日本において臨床的に明らかな単独栄養素の欠乏症や過剰症の見ることは少ない現状があります。一方で、測定技術の進歩により、臨床症状出現前の生体指標の変化が捉えられるようになってきました。
今後は各指標策定における生体指標の有効活用について検討を進める必要があります。
また、日本における近年の疾病構造を考慮すると生活習慣病等の発症予防の重要度が増していますが、栄養素固有の影響で、比較的短期間で生じる栄養素の欠乏症や過剰症と比べて、生活習慣病等をアウトカムとした目標値などの指標の策定については、その方法論自体に検討の余地があります。
各指標の定義を必要に応じてアップデートして、その意味合いの理解を促進する必要があります。
さらに、食事摂取基準は活用を見据えて策定されるべきものです。現在の日本人のエネルギー・栄養素摂取状況と食事摂取基準の網羅的な比較は一部で実施されていますが、より積極的に行われる必要があり、摂取実態の現状に関する知見は共有されるべきです。
その上で、基準の策定と活用法の検討が行われることが望まれます。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕