「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、各論のエネルギー・栄養素について説明しています。その中から推定エネルギー必要量の算定方法を対象別に紹介します。
〔算定方法〕
◎妊婦
妊婦の推定エネルギー必要量は、「推定エネルギー必要量(kcal/日)=妊娠前の推定エネルギー必要量(kcal/日)+妊娠のエネルギー付加量(kcal/日)として求められます。
女性の妊娠(可能)年齢が、推定エネルギー必要量の複数の年齢区分にあることを鑑み、妊婦が妊娠中に適切な栄養状態を維持して正常な分娩をするために、妊娠前と比べて追加的に摂取すべきと考えられるエネルギー量を、妊娠期別に付加量として示す必要があります。
二重標識水法を用いた縦断的研究によると、妊娠中は身体活動レベルが妊娠初期と後期に減少しますが、基礎代謝量は逆に、妊娠による体重増加によって後期に大きく増加します。
その結果、エネルギー消費量の増加率は妊娠初期、中期、後期とも、妊婦の体重の増加率とほぼ一致しており、全妊娠期において体重当たりのエネルギー消費量は、ほとんど差がありません。
したがって、妊娠前のエネルギー消費量(推定エネルギー必要量)に対する妊娠による各時期のエネルギー消費量の変化分は、妊婦の最終体重増加量11kgに対応するように補正すると、初期:+19kcal/日、中期:+77kcal/日、後期:+285kcal/日と計算されます。
また、妊娠期別のたんぱく質と体脂肪の蓄積量から、最終的な体重増加量が11kgに対応するように、たんぱく質と体脂肪としてのエネルギー蓄積量を、それぞれ推定してそれらの和としてエネルギー蓄積量を求めました。
その結果、各妊娠期におけるエネルギー蓄積量は初期:44kcal/日、中期:167kcal/日、後期:170kcal/日となります。
したがって、最終的に各妊娠期におけるエネルギー付加量は、「妊婦のエネルギー付加量(kcal/日)=妊娠による消費エネルギーの変化量(kcal/日)+エネルギー蓄積量(kcal/日)」として求められ、50kcal単位で丸め処理を行うと、初期:50kcal/日、中期:250kcal/日、後期:450kcal/日と計算されます。
ところで、体重増加に必要なエネルギー量は理論的には身体活動レベルによって異なります。
しかし、妊娠中の身体活動レベルの増減は、それぞれの研究で必ずしも一致せず、身体活動レベル別に付加量の擬態的な値を示すことは難しくなっています。
さらに、妊娠中の望ましい体重増加量は妊娠前の体格(BMI)に大きく関連します。
日本産科婦人科学会と日本産科婦人科医会が作成した「産婦人科診療ガイドライン−産科編2023」では妊娠前のBMI別に妊娠中の体重増加指導の目安が設定されています。
アメリカ・カナダの食事摂取基準でも妊娠前BMI別の体重増加推奨値に応じて付加量を設定しています。
しかしながら、日本人妊婦において同様に考え方で付加量を設定するには、まだ十分なデータがそろっていないことから、今後の課題とすることとされています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕