日々修行279 “傾聴”という役割

「相手の素晴らしさを引き出すには聞き手に徹することが大切」というのは、初めて書籍のゴーストライターを務めたときに、その役割を私に振ってきた(任せてくれた)方から、たった一つの注意点として言われたことでした。

その話を伺う方が、経営の神様として知られる大経営者で、日本を支えていく政治経済の人材を育成するために私財を投げ打って塾を開設した日本の大恩人ともいえる方であったので、絶対に失敗してはいけないという感覚でのアドバイスでした。

書籍の発行元は、経営の神様が設立した研究所の名を冠した出版社で、私に振ってくれた方は出版部門の幹部でもあったので、他の心配もあったかもしれません。

二度と会えないかもしれない人からは、聞き出すだけ聞き出してやろうと気負うところがあり、引き出すために自分のこと、自分が経験してきたことも少しは話すというのはゴーストライターやインタビュアーのテクニックとしてはあるのですが、それは封印して臨んできた結果として身についたのは“傾聴”のテクニックでした。

テクニックというよりも、話すことに集中しているときには、それを途絶えさせないように余計な動きはしないようにする、もっと聞きたいときには表情で示す、頷く(うなずく)、重要なキーワードだけを筆記する、といった反応だけでした。

言いたいことを話してもらい、それを聞いているだけですが、もっと話したい、話しながら考えてもらい、もっとよい話をしてもらうということで、できるだけ短い時間で集中してもらうようにしていました。

資料をもらえばわかる、他の人に聞けばわかるということは、インタビューの場では省略して、できるだけ時間を使わせないようにすることを心がけていました。

ただ聞いているだけなのに、話しやすい雰囲気になり、思った以上の話をしたと感じてもらえれば、ゴーストライターの仕事の半分は終わったようなものです。ここまでくれば、その後は引き出したことを文章にしていくだけです。

このときの傾聴のテクニックは、インタビューだけではなく、その後の団体などのコミュニケーションづくりにも役立てることができました。

複数の公益団体の事務局や広報の仕事をさせてもらっていたときには、紹介者が厚生労働省のお役人ということで、活動を探りに送り込まれてきた人(スパイ?)とみられることがありました。

そのようなつもりはなかったものの、団体を構成する会社から送り込まれてきた人もいることから、揉め事が起こらないように違和感やズレ、意見のぶつかり合いは事前に察知して報告することは求められていました。

探りを入れるというのでは警戒されてしまうこともあり、何か言いたいことがあるように感じたときには、一方的に話を聞くだけの傾聴をしていました。そのためには話しやすい雰囲気でいることが必要とされました。

このときの経験は、寄せ集めで仕事をする組織や施設で現場の声をキャッチして、伝えるべきことだけは上に伝えるということとして、今も担っています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕