日々修行282 太ることもダイエット

「太ることもダイエット」という言葉は、臨床栄養の世界に入った40年前から、ずっと言い続けてきたことです。この言葉を聞いて、常識を覆すようなことを言っていると褒めてくれる方もいるのですが、別に新規のことを言っているつもりはありません。

臨床栄養の立場だけでなく、健康的な体重維持、身体組成(バランス)を求める健康科学に関わる人にとっては当たり前のことだからです。その当たり前のことが、長きに渡って広く理解されず、まるで珍しいことを言っているように思われてしまうところがあります。

まず初めに理解というか確認しておいてほしいのは、ダイエットは“やせる”ことだけを指していないということです。

とはいっても、ダイエットという言葉は「やせる」という意味でとらえられがちです。また、やせるために、「食事量を減らす」ことや、極端な考えをする人には「食べない」という意味にとらえられていることもあります。

しかし、ダイエット(Diet)の元々の意味は「政策、方針、計画、作戦、戦略」などで、自分の立てた方針や計画どおりに進んでいくことを指しています。国の方針を決めている国会は英語では「the Diet」となっています。東京メトロの国会議事堂前駅は「National Diet bldg.」と英語表記されています。

方針や計画どおりに進むという意味から転じて、食事に関して使われるときには「自分の方針に沿った食事」「食事を通じての正しい生活」という意味になり、一般には食事療法として使われています。

ここから、さらに転じて「自分の方針に沿った運動」「適した運動療法」としても使われるようになりました。

栄養士は、正しい食生活のための献立を作り、食事法などを指導する職業ですが、英語ではダイティシャン(Dietcian)といいます。栄養士はダイエットをする人ではなく、食事を通じてのダイエットの方法を指導する人を意味するわけです。

太っている人には体脂肪を減らすような食生活を指導して、逆にやせすぎている人には体脂肪を増やすような食生活を指導することによって、健康的に生活できるように指導することがダイエットであり、人によっては太ることもダイエットとなります。

少し難しい言葉かもしれませんが、「食養生」がダイエットの一番適した訳といえます。

身体の養生のために、食事の内容を見直すことが大切であり、少なくとも身体の状態に合わないような食事や、身体を傷める危険性があるような食事制限をすることは、決してダイエットと呼ぶことはできないわけです。

高齢になると、太りたくても太ることができないという人が増えていきます。体脂肪だけでなく、筋肉もつきにくくなっていくので、太るダイエットも目指してほしいということも伝えています。ですが、まだ充分には伝わっていなくて、力不足を感じているのが正直なところです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕