マーケティングというと大仰な感じがするので、本人としては、それほど意識していないのですが、私が手掛けてきたことをマーケティングの成果として捉えてくれる人もいます。
手掛けてきたといっても、できるだけ表に出ないようにして、マーケティングのサポートという立場を貫こうとしていたところがあります。
マーケティングは、商品そのものを宣伝する行為と思われることもあるのですが、一番の役割は“雰囲気づくり”“ムードの醸成”です。食べてみて、それを美味しいということをテレビ番組で伝えるのは、簡単なように思われても、実際には超難関なことです。
テレビは視覚と聴覚に訴えかけるので、他のメディアに比べたら美味しさは伝わりやすいと言われるものの、それは他のメディアに比べてのことで、多くは伝える人の腕(表現力)にかかっています。
私たちが目指したのは「食べる前から美味しい」ということで、レポーターやタレントは、余計な食レポをせずに食べて、美味しいことを表情で伝えるだけで充分というスタンスです。
食べる前に「美味しそう」と言って、食べてから「美味しい」と言うのではなくて、材料、調理法、提供法、それぞれのこだわりと物語を伝えるだけで、食べてもいないのに美味しいと感じてもらうことができます。
そのための工夫は、小手先のことで済ませることはできなくて、それこそ歴史に残るような仕掛けが必要になることがあります。その一つの例として、ここであげるのは日本テレビ系列で毎週放送されていた「どっちの料理ショー」です。
1997年4月から2006年9月の放送で、放送当初はフジテレビ系列の「料理の鉄人」(1993年10月〜1999年9月)をパクった番組、高級路線に対して大衆路線などと揶揄されたこともありました。
高級食材とプロの技術を堪能する「料理の鉄人」に対して、身近な料理を今日はどちらが食べたいかで選ぶ「どっちの料理ショー」という特徴があったのですが、私が付き合ってきた大衆料理の雄であるラーメン界に革命をもたらした超有名人の「食べる前から美味しい」を現実のものにするというミッションがありました。
どんなミッションだったのかは、別の機会に書きますが、ミッションが完了したら次の番組にバトンタッチするという意図もありました。
それなのに「料理の鉄人」よりも長く続くとは思っていなかったことで、バトンタッチした「秘密のケンミンSHOW」(2006年9月〜2020年3月)、「秘密のケンミンSHOW極」 (2020年4月〜現在)も、大衆の味という路線は変わっていません。
「実食」をしなくても充分に美味しさが伝わる、食べたくなる、遠距離であっても食べに行きたくなるという新たなマーケティングの世界を生み出すことも続いています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕