食事摂取基準82 生活習慣病等の発症予防3

「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、各論のエネルギー・栄養素について説明しています。その中から生活習慣病等の発症予防の「生活習慣病及びフレイルとの関連」の続きの後半を紹介します。

〔生活習慣病及びフレイルとの関連〕
たんぱく質が直接的に大きく影響するとともに、サルコペニアの診断基準項目の1つである筋量に着目した、70歳以上の高齢者男性を対象にした10週間の無作為化比例試験では、たんぱく質推奨量(0.8g/kg 体重/日)を摂取する群では四肢筋量が減少した一方で、推奨量の2倍量(1.6g/kg 体重/日)を摂取する群では、四肢筋量が維持されたことが報告されています。

また、過体重または肥満の高齢者を対象に実施した無作為比較試験では、通常たんぱく質摂取群(0.8g/kg 体重/日)と高たんぱく質摂取群(1.4g/kg 体重/日)の両者ともに体重が減少した中で、高たんぱく質摂取群のほうが四肢筋量の減少量が少なかったことが報告されています。

これらを踏まえると、現段階ではたんぱく質摂取量とフレイルおよびサルコペニアの罹患率や、それらの判定に含まれる項目を評価した研究の質・量ともに十分ではないため、フレイルおよびサルコペニアの発症予防を目的とした望ましいたんぱく質摂取量を策定することは難しいものの、少なくとも高齢者においては、推奨量の値よりも多めに摂取するほうが(1.2g/kg 体重/日以上)、フレイルおよびサルコペニア発症を予防できる可能性があると考えられます。

なお、若年成人を対象にエネルギー摂取量を増やした上で、たんぱく質摂取量の違いが除脂肪量の変動に及ぼす影響を検討した無作為化比較試験においても、0.68g/kg 体重/日のたんぱく質を含む食事を摂取している群は除脂肪量が減少した一方で、1.8g/kg 体重/日のたんぱく質を含む食事を摂取している群は除脂肪量が増加したことを報告しており、若年成人においても筋量を維持するためには推奨量以上のたんぱく質を摂取することが望ましいと考えられます。

しかしながら、通常の食事の摂取範囲を逸脱した研究デザインや、付加したたんぱく質量は明らかなものの、通常の食事を含めたたんぱく質の総摂取量が明らかでない介入研究が多く受け取られたことから、それらを食事摂取基準の策定根拠として用いることが困難でした。

今後、通常の食事からのたんぱく質摂取量がフレイルやサルコペニアの罹患率に与える影響を明らかにする介入研究の実施が課題です。

このほか、多量のたんぱく質摂取が2型糖尿病の発症リスクとなる可能性がアンブレラレビューによって報告されているものの、2型糖尿病の発症リスクとなり得るたんぱく質摂取量についての結論は得られていません。

また、たんぱく質摂取量と血圧の関連についてのレビューでは、各報告の結果が一貫していないため、十分な結論を出すことは難しいとされています。

さらに、たんぱく質摂取量と骨密度の関連についてのレビューにおいても、研究の成果は一貫していないため、十分な結論を出すことは難しいことが報告されています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕