“経営の神様”と呼ばれた松下幸之助さんの金言の「任せて任さず」の話をするときに、話を聞いている人が、どこまで松下さんのことを知っているかで伝え方を工夫しなければならないことがあります。
会社名が松下電器産業であった時期には、同じ松下なので松下電器産業の創業者であり、松下政経塾を設立した伝説的な人物であることは伝わりました。
松下電器産業が現在のパナソニックに商号変更をしたのは2008年のことで、物心がついたとき(意識したとき)にはパナソニックであった人にとっては伝わりにくいところがあります。
私がPHP研究所で書籍のゴーストライターを務めていたのは1995年までだったので、“松下電器時代”そのものの中でのことでした。
会社の正式名称は松下電器産業でしたが、一般には「松下電器」と呼ばれていました。松下さんにインタビューしたときも、ご本人は「松下電器」と話していました。
お題の「任せて任さず」の原点は、「松下電器産業は何を作る会社か」と質問されたときに答えた言葉にあります。それは「松下電器は人をつくるところです。併せて電気製品も作っています」で、これは松下さんを語る上では避けては通れない言葉です。
この言葉は経営者が言っているだけでなく、従業員が営業先でも必ず言うことが徹底されていました。
松下電器産業は3人で始めた松下電気器具製作所から、世界企業にまで成長することができたのは、人の成長を大切にして事業をしてきたことが重要なポイントであり、経営理念の根幹にもなっています。
創業の3人は松下さんと奥さん、奥さんの弟(井植歳男さん)ですが、井植さんは松下電器産業で専務取締役であり、三洋電機の創業者でもあります。
「人をつくる会社」という発想は、今も受け継がれて、パナソニックグループの「人をつくり人を活かす」という経営基本理念(人的資本経営)となっています。
〔セカンドステージ連盟 小林正人〕