健忘録SP2 ワインの師匠からの学び

桑山為男先生はワインの世界では知らない人がいない重鎮中の重鎮で、私が巡り合ったときはホテルオークラ(東京・虎ノ門)のメインレストラン「ラ・ベル・エポック」のチーフソムリエ(後のシェフソムリエ)でした。

幅広の名刺には数々のワインに関する役職や資格名が列記されていて、フランスの各地のワイン協会によるワイン騎士などに続いて、ベネンシアドールとありました。

これはシャリー酒(スペイン・アンダルシ地方の白ワイン)を樽から柄杓でグラスに注ぐプロの資格で、当時はスペイン人以外では世界で唯一の存在でした。

ジャパンワインソサエティ(Japan Wine Society)は桑山先生がホテルオークラ内に設立したグループで、当時はワインに直接関わっていないメンバーは私だけでした。ワインの魅力を伝えることが役割ということで、さまざまなメディアに取り上げられるように動きました。

これが後に酒のペンクラブにもつながり、ソサエティのメンバーからは苦言もありましたが、桑山先生は「ワインだけでも多くの分類があるのだから、多くの種類の酒を知ることはワインの普及にも役立つ」と言ってもらいました。

その当時は貴腐ワインが日本(山梨)でも製造されるようになったばかりの頃で、白ワイン用のブドウの果皮が特殊なカビに感染することによって皮が薄くなり、糖度が高まり、特有の芳香が出るという超高級ワインでした。

貴腐ワインの製造所に取材と称して一緒に行かせてもらい、持ち帰ったものを料理と合わせて、メニューを考える機会にも参加させてもらいました。

桑山先生から言われたことで今も肝に銘じているのは、「ソムリエの真似は人前でしないように」ということでした。ソムリエはワインの味を確認するために、口に少し含んでドゥルルッと啜るように鳴らすことがあります。これは急激に空気に触れさせて香りを立たせるための手法です。

これはソムリエだけに許されることですが、レストランのホストテイスティングのときにドゥルルッと鳴らす人は今でも年に何回か目にしています。
〔小林正人〕