投稿者「JMDS」のアーカイブ

歩いただけで両親や祖父母に誉められた幼少のときを除くと、歩くことを誉められたのは、いつであった、なかなか思い出すことができない、という人は多いと思います。骨折や骨粗鬆症になって、このまま歩けなくなるかもしれないと覚悟した人がリハビリテーションに取り組んで、なんとか歩けるようになったときに介護士や家族から誉められることはあるかもしれませんが、こういう誉められ方は、あまり望ましいことではありません。
スポーツをやっていて、そのフォームが素晴らしいと誉められることはあるでしょう。歩くスポーツがあれば、そのフォームは称賛に値するかもしれません。歩くのは健康によいことなのでスポーツと同じだと言っていた運動科学の研究者もいましたが、歩くことの代表のようなウォーキングもスポーツかと言われると首を傾げる人も少なくありません。
ウォーキングは、いろいろなスタイルがあるのですが、我が国のウォーキングの代表的な団体の一般社団法人日本ウオーキング協会ではマーチングリーグが採用されています。マーチングリーグというのは長距離を歩くことを目的としていて、日本ウオーキング協会が主催する全国規模のウオーキング大会では最長で50kmの3コースを3日間をかけて踏破するという驚きの大会もあります。
ちなみにウォーキングとウオーキングの両方の言葉が出てきていますが、間違いではなく、日本ウオーキング協会は、これが正式名称で、この協会が関わるのはウオーキングと呼ばれます。日本ウオーキング協会が認定する資格は健康ウオーキング指導士など、すべてウオーキングとなっています。
健康ウオーキング指導士をはじめとした指導者は、正しい歩行姿勢と歩行法を指導しています。その正しい姿勢と歩行法を身につけて、無理なく長距離を歩行していると誉めてもらえます。目標は地球1周分の4万kmです。カウントされるのはウオーキング大会で歩いた距離です。
正しい姿勢と歩行法に基本はありますが、何が正しいのかという判断基準は、目的に合った姿勢と歩行法になっているかということです。
長距離歩行には早歩きは相応しくないでしょうが、短時間で筋肉や心肺機能を鍛えようという人には早歩きも効果的です。30分以上歩かないと健康効果がない、というようなことを言う人がいますが、これは歩き始めてから30分を過ぎないと脂肪が効果的に燃焼しないことを指しています。血糖値が高い人が血液中のブドウ糖(血糖)を燃焼させようとしたら、ブドウ糖の燃焼から中性脂肪の燃焼に大きく切り替わる15分以内の歩行がよいことになります。この15分間の歩行を2〜3回繰り返したほうが健康効果は高いことになります。
となると、その目的に合った姿勢と歩行法が正しいことになります。このように何が正しいのかは目的が第一として、次には各人の状況や体調などに合っているかが判断基準になります。歩き方が誉められたら、その歩行法が最もよいと判断するのではなく、振り返ってみて、何を目的として歩くのか、それで効果が得られるのか、ということから正しいのか、誉められることなのかを考えるべきではないでしょうか。

熱中症が心配される夏季には、それを防ぐために、室温が上がりすぎないように、暑い時間帯には外出しないように注意するとともに、水分の補給が強く言われます。暑い季節は、皮膚からの水分の蒸発が激しくなり、普通に水分を取っているつもりでも水分不足になりがちです。
体内の70%ほどは水分だと言われますが、それは若いときの話で、年齢を重ねると60%ほどに、高齢になると50%台にもなります。それだけ体内の水分が少なくなっているところに、蒸発によって水分が減ると身体を冷やすための水が不足します。
水分は身体を冷やすだけでなく、全身の細胞は水分量が一定に保たれることによって正常な活動が保持されているので、全身の働きにも悪影響が出ることになります。
暑い季節に運動をすると汗をかくので、それを補うための水分補給は正しいことですが、汗によって失われるのは水分だけでなく、塩分(ナトリウム)も減ります。汗には塩気があるので、これは理解しやすいことですが、さらにカルシウムも汗と一緒に体外に出ていきます。運動をする人が、骨に刺激を与えているはずなのに骨粗鬆症や骨折がみられるのは、これが原因の一つとなっています。
汗をかいたときにはカルシウムも摂取しなければならないわけですが、カルシウムは細胞のイオンバランスを調整して、細胞の働きを正常に保つ作用に加えて、神経伝達にも関わってきます。熱中症までいかなくても、夏バテの症状はカルシウム不足によっても起こってきます。
汗をかくときの外出や運動では塩分摂取に塩飴をとるのが有効ということで、ウォーキング大会で塩飴を配って舐めながら歩いてもらったことがあります。そのときにカルシウムが含まれたドリンクを飲んでもらうことが検討されました。カルシウムは、ただ飲めば、それで吸収されるというものではありません。カルシウムはイオン化してからでないと吸収されません。食事の後に摂ると胃の中には食べたものを消化するために消化液が使われ、イオン濃度が低下しています。この状態ではカルシウムは効率よく吸収されません。吸収率が高いのは空腹時です。
空腹時というと勘違いする人もいて、最も空腹な状態は食事をする直前だというので、そのタイミングで摂る人がいます。直前ということは、すぐに食べ物が胃に入ってくるのでイオン化しにくくなります。空腹時というのは一般には食事と食事の間の時間になります。そのことがわかっていれば、カルシウムの飲料もサプリメントも効果的に摂れるようになります。
水分は充分に飲んだつもりでも、胃の中に長く留まっているわけではありません。胃に入った後は、ほとんどが腸へとすぐに流れていきます。飲んだ水分を徐々に腸へと送り、水分切れを起こさせないようにするためには、胃の中に水が留まっている時間を長くすればよいわけです。そんなことができるのかというと、水溶性食物繊維を活用することです。日本ウオーキング協会の公認商品であるサルバチアはチアシードの白いタイプですが、水分を吸うと14倍にも膨らみ、水分を多くキープします。水溶性食物繊維は2時間ほどで消化されますが、その間に水分を徐々に離していって、胃から腸に徐々に水分が送られていって、熱中症予防のために少しずつ水を飲んだのと同じことになるわけです。
チアシードの情報は、このサイトの「サプリメント事典」を参照してください。

健康を扱ったバラエティー番組で、八丁味噌は血糖値の上昇を抑えるので、愛知県には糖尿病が少ないと紹介していました。愛知県民に糖尿病が少ないのは事実で、愛知県民といえば赤味噌の代表である岡崎の八丁味噌の消費量が多いので、これを結びつけるのはテレビ番組の手法としては当然のことといえます。
愛知県の食事といえば、八丁味噌を使った味噌カツにきしめん、エビフライに手羽先、ういろうと、なんとなく腹が膨れる料理が多く、最近の名古屋メシも満腹食です。糖質を多く摂っているのに糖尿病が少ないとなると、特徴的な食品が注目されるのもわかります。愛知県には朝食を喫茶店でしっかりと食べるモーニングという食文化もあります。
名古屋の人口は約231万人で、愛知県の人口の約752万人のうちの30%ほどを占めているので、これも名古屋の食品が影響しているという論拠の一つに使われています。八丁味噌の濃い味の料理を食べるには、ご飯を多く必要になります。普通なら血糖値が上昇しやすく、糖尿病が多くなってもおかしくない話です。
そんな愛知県民に糖尿病が少ない理由としてあげられているのがメラノイジンの存在です。メラノイジンはたんぱく質を加熱したときのメイラード反応によって発生する褐色成分で、大豆のたんぱく質から多く発生します。加熱して発酵によって熟成すると多く発生するということで、八丁味噌には最もメラノイジンが多く含まれています。
メラノイジンの有効性は、以前は抗酸化作用が一番で、血管の強化による血流促進、そして食物繊維としての働きから便秘の解消があげられていました。この有効性は今も“有効”ですが、最近の研究で小腸からのブドウ糖の吸収を抑制する働きが確認されたことから、メラノイジンが多く含まれている八丁味噌を一番食べている愛知県民に糖尿病が少ない理由として広まっているというわけです。
ここまでは、よくある話でよいのですが、この番組を見ていた他局のディレクターから「ドクターのコメントが気になる」という話を聞きました。どんなコメントなのかというと、糖尿病を防ぐ方法として「甘いものは食事の一環として食べる」と言っていました。おそらく、甘いものを食事と食事の間に食べると血糖値が下がる時間が少なくなり、膵臓に負担がかかって、糖尿病になりやすくなるという意味でコメントしたのだと思います。
しかし、これを聞いて、「食事の後に菓子を食べるようにした」と言っている人がいて、それは勘違いと指摘しました。砂糖が含まれた菓子は血糖値が急上昇するので膵臓からインスリンが多く分泌されます。では、食後に菓子を食べると、どうなるのかというと、食事で上昇した血糖値が菓子の砂糖で、さらに上昇することになるので、むしろ危険だという考えもあります。このへんのことを勘違いされないようにコメントしてほしい、テロップで注意書きを入れてほしい、というのが私たちの考えです。

「上手」はじょうず、うわてというように別の読み方があるということを以前に紹介しましたが、他にも同じようなものはあるか、ということがサイトの問い合わせにありました。あまり健康とは関係のない話になりますが、この機会に上手とは逆の意味になる「下手」について書いていきます。
上手(じょうず)に対する下手は「へた」と読みます。これは、物事に巧みでないこと、まずいこと、不器用なこと、なまじっかなこと、いいかげんなこと、という意味です。
上手(うわて)に対する下手は「したて」と読みます。これは、下の方、他より低い地位を指しますが、相撲では組んで相手の指し手の下からまわしを取ることを言います。また、犬追物では自分の馬の後に立った射手となります。
他に「げしゅ」と読んで、手を下すこと、「しもて」と読んで、下の方(下流、芝居の舞台の見物席から見て左の方、魚網の右の綱)という意味になります。
ついでなので、下がつく他の漢字も紹介します。
下座 「げざ」座を下りて平伏すること。しもての座。能舞台でワキや地謡のすわる座。歌舞伎芝居で囃子方の居る場所。積んだ法臘による僧の階級の一。「しもざ」下位の座席、末座。芝居の舞台で観客から向かって左方。
下田 「げでん」地味のやせた下等の田地。「しもだ」静岡県伊豆半島の南東端下田湾に臨む港湾・観光都市。
下品 「げひん」品の悪いこと。劣った品物。「げぼん」極楽浄土に往生する者の生前に積んだ功徳の違いに応じて9品を上・中・下に三分した最下位のもの。下品、下等。
下野 「げや」官職を辞して民間に下ること、政権を失って野党になること。「しもつけ」栃木県の旧国名。バラ科の落葉小低木。
読み間違えると、まったく意味が違ってきますが、テレビ番組に耳を澄ませて聞いていると出会うことがある言葉づかいです。

糖化は糖質の摂りすぎによって細胞が老化していくことで、糖化すると細胞が褐色になっていくことから健康の面からだけでなく、美容の面でも注目されています。糖質の摂りすぎによって細胞の中にブドウ糖が多く蓄積されていくことが原因なので、糖質制限は効果があると考えている人も少なからずいます。それは正しいとしても、だからといって食事で糖質を摂らなければ健康になれるという主張には首を傾げる人も少なくありません。
「糖尿病の薬は糖化を進める危険性はないのか」という質問を雑誌記者から受けました。これと同じことをサプリメントのセミナーで質問として聞かれたことがあります。糖尿病の薬には、糖質がブドウ糖に分解されるのを抑えるものが第一に使われますが、これはブドウ糖がゆっくりと吸収されることによって血糖値の急上昇を抑えるためのもので、糖化には関係がありません。関係があるのはインスリンの分泌を高める薬で、インスリンによって細胞にブドウ糖が取り込まれているので、インスリンが多く分泌されるようになると血糖値が下がるようになります。
血糖値が下がるのは細胞に多く取り込まれた結果で、多く取り込まれるほど細胞内のブドウ糖は多くなりますが、このブドウ糖が細胞内のミトコンドリアに効率的に取り込まれて、エネルギーとなっていれば細胞内のブドウ糖が多くなりすぎることはなく、糖化が進むようなこともないはずです。インスリンが多く分泌されて、ブドウ糖が多く取り込まれた後にミトコンドリアにブドウ糖を送り込むためにはα‐リポ酸が必要になります。
ブドウ糖は細胞内でアセチルCoAに変化してからミトコンドリアに取り込まれて燃焼サイクルのTCA回路に入っていきますが、ブドウ糖をアセチルCoAに変えるために欠かせないのがα‐リポ酸です。α‐リポ酸は体内で合成されているものの20歳代をピークに減り続け、ブドウ糖を燃焼させる能力が低下していきます。ブドウ糖の燃焼が少なくなると、細胞内のブドウ糖が多くなり、細胞から外に溢れ出ると血液中のブドウ糖が多くなり、これが糖尿病の原因となります。年齢を重ねるほど糖尿病が増えるのは細胞にブドウ糖を取り込む能力が低下することだけでなく、α‐リポ酸の減少も影響していると考えられています。
α‐リポ酸が減少しているところにブドウ糖が多く取り込まれると細胞内のブドウ糖が増えすぎて、糖化が進むのも当然に考えられることです。となると、血糖値が下がったと喜んでいる場合ではありません。ブドウ糖を積極的に燃焼させるためにα‐リポ酸を多く摂る必要があります。しかし、α‐リポ酸は体内で合成されるために、食品からの吸収量は少なくなっています。食品からは摂りにくいものの医薬品として吸収率を高めることは可能です。今では食品として摂ることも許可されており、サプリメントの成分ともなっています。
サプリメントとして摂ることはできるものの、天然型のR体のα‐リポ酸は胃液で分解されやすいことから、非天然型(人工型)のS体と組み合わせたラセミ体にして使われています。体内ではR体しか使われないので、半分は使われないことになります。S体のα‐リポ酸はインスリンを凝集させて働かなくさせることから低血糖になることが確認されています。
ここまで説明してきたら、「インスリンが働かなくなるから低血糖ではなく高血糖になるのでは」という質問が寄せられましたが、インスリンが不足するとミトコンドリアで作り出されるエネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)が不足して、全身に影響が出てくるので、膵臓からインスリンが多く分泌されることになります。そのためにインスリンが濃い状態になって、急にブドウ糖が細胞に多く取り込まれて低血糖になるのです。
ATPは全身のエネルギーとなるだけに、これが不足すると糖尿病に打ち克つパワー(体内の調整能力)が不足するだけでなく、他の疾患についても発症しやすく治りにくいことにもなります。
糖尿病の薬としてインスリンの分泌を進める作用のものを選ぶときには、R体のα‐リポ酸を摂ることも一緒に考えるべきだということです。
α‐リポ酸については、このサイトの「サプリメント事典」を参照してください。

医薬品を使わずに生活習慣病を治そうとするのは大変なことです。まだ、検査数値が基準値を超えていない段階なら食事と運動で元の状態に戻すことはできるとしても、基準値を超えた期間が長くなれば長くなるほど戻りにくくなります。初期段階で医薬品を使うと、食事の改善や運動をしなくても基準値を下回ることはできます。だからといって医薬品だけに頼っていると、年齢を重ねるにつれて医薬品の効果が出にくくなります。
というのは、人間の身体には恒常性という元に戻ろうとする働きがあり、血圧が高くなれば低くするように身体が調整され、血糖値が高くなれば低くするように調整される能力があります。この調整力は若いときに充分に働くものの、高齢になると働きにくくなります。この恒常性の調整力が衰えないようにするためには、栄養摂取と運動によって身体の機能を発揮させ続けることです。
調整力は栄養と運動の何によって具体的に高められるのかということは、以前から研究されてきましたが、「生命エネルギーである」との考えが広まってきています。生命エネルギーという言葉を使い出すと、なんだか怪しい感じも漂ってきますが、ここでいう生命エネルギーはATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー物質のことで、細胞のミトコンドリアの中のTCA回路でエネルギー源の糖質や脂質を材料として作り出されています。糖質のブドウ糖1分子がTCA回路で燃焼すると36個のATPが作り出されます。その量は1日に50〜100kgにもなり、なんと体重を超えるくらいのエネルギー物質が細胞の中で発生しているのです。
ATPは活動のためのすべてのエネルギーとして使われます。体温を高めるのも、筋肉や心臓を動かすのも、内臓や器官を働かせるのも、神経や脳が正常にコントロールされるのも、免疫を高めて病原菌などと戦うのも、すべてATPが休みなく作り続けられるからです。ATPを電池のように蓄えておく器官は体内にはないので、寝ているときも起きているときも作り続けるしかありません。
ミトコンドリアが多く存在しているのは筋肉や肝臓、脳などですが、特に筋肉は積極的に動かすことによってブドウ糖や脂肪酸を材料にしてエネルギーを多く作り出すようにできます。筋肉が増えると、寝ている間に作られるエネルギーも増えていきます。
老化によって恒常性が低下しないようにするにはATPが多く作り出されるようにすることが大切で、ATPが多く作り出されていれば病気にもなりにくくなるということです。ミトコンドリアの中のTCA回路でエネルギーを作り出すためには、ミトコンドリアに効率的にエネルギー源の糖質(ブドウ糖)と脂質(脂肪酸)を取り込まなければなりません。ブドウ糖を取り込むためにはα‐リポ酸が、脂肪酸を取り込むためにはL‐カルニチンが必要になります。これらをTCA回路で効率的に燃焼させるためには補酵素であるコエンザイムQ10が必要になります。
これらの成分は三大ヒトケミカルと呼ばれていますが、代謝に必要であることから体内で合成されています。どれも20歳代をピークに合成量が減り、蓄積量も減り続けていきます。そのために年齢を重ねるほどATPを作り出す能力して低下していくことになり、これが老化を進める要因となります。
α‐リポ酸、L‐カルニチン、コエンザイムQ10については、このサイトの「サプリメント事典」を参照してください。

未病をテーマにした健康寿命延伸のプロジェクトに関わっていることから、メディア関係者から「未病の定義は」という質問が寄せられることが増えています。何度も同じことを答えるのが面倒だ、ということではなく、広く知ってほしいとの思いから、文章化してみました。
日本未病システム学会は“健康と病気の間を科学する”というキャッチフレーズを掲げています。それを普通に分類すると〔健康〕〔未病〕〔病気〕ということになります。健康と病気の間にある未病には二つの考え方があって、「検査をしても何も異常がないのに自覚症状がある」のが東洋医学的未病、「検査で異常が発見されても自覚症状がない」のが西洋医学的未病としています。後者は生活習慣病では当たり前に起こることなので、生活習慣病が西洋医学的未病であると考えている人もいます。
「検査数値の異常も自覚症状もない」のは健康、「検査数値に異常があって自覚症状がある」のは病気ということになるわけですが、「西洋医学的未病は健康と病気の、どちらに近いのですか」という質問をされたことがあります。この答えは簡単で、「近いかではなく、健康そのものです」と返事をしています。
WHO(世界保健機関)は「恒常性が崩れてしまって元に戻らなくなっているか戻りづらくなっている状態で、自立できなくなった状態」を病気と定義しています。では、自立できているうちは何なのかというと、これは健康です。つまり、自立できている間は健康ということになります。これでは検査数値にまったく問題がない人から検査数値に異常があって高血圧や糖尿病と診断された人までが健康となってわかりにくくなります。そこで未病の研究者は、生活改善でよくなる状態を未病1、医療機関で薬物治療が行われている未病2と分類している人もいます。
私たちは、健康という観点から、「自立できていて検査数値に異常がない状態」を健康1、「自立できているが検査数値に異常がみられ、治療や生活習慣改善による自らの努力によって健康1に戻れる状態」を健康2に分類しています。そして、「自立ができずに介護や介助が必要で、治療をしても健康2に戻れない状態」を病気としています。この戻れない状態とは糖尿病などの合併症や重症の疾患を指しています。
私たちが関わっている未病プログラムは、健康2の状態の人を中心の対象としていて、介護予防の分類では一次予防となります。一次予防は、未だに介護が必要な状態ではない65歳以上の人に対して実施するものです。二次予防は、介護が必要な65歳以上の人が、これ以上は悪化しないように、もしくは程度が軽くなるように実施するものです。未病プログラムとして食事の改善、運動の継続に取り組むことで病気にならないようにするだけでなく、健康1に戻ることも目指してアクティブに行動することが重要と考えます。そのために、あらゆる手段を使い、組み合わせてよりよい結果を生み出すのが私たちの役割で、いくら研究しても研究し足りるようなことはありません。

人の身体の約95%は炭素、水素、酸素、窒素などの元素が結合した有機物で、残りの約5%の元素の無機質がミネラルとなっています。体内に必要な16種類のミネラルは必須ミネラルと呼ばれます。ミネラルのうち体内に比較的多い7種類(カルシウム、リン、カリウム、イオウ、ナトリウム、塩素、マグネシウム)は多量(主要)ミネラル、少量しか含まれない9種類(鉄、亜鉛、銅、ヨウ素、セレン、マンガン、モリブデン、クロム、コバルト)は微量ミネラルと呼ばれます。
ミネラルには、骨や歯などの身体の構成成分になるほか、体液に溶けてpH・浸透圧を調整する、酵素の構成成分になる、神経・筋肉の調整をするなどの作用があります。
ミネラルは吸収されたあと、肝臓に運ばれ、他の物質と結合するなどして、全身の必要とされる組織に運ばれます。それぞれの組織はミネラルが補われることによって、本来の機能が発揮されます。ミネラルは主には小腸から吸収されますが、亜鉛の一部は胃から、ナトリウムの一部は大腸からも吸収されます。鉄はビタミンCとの組み合わせによって、カルシウムはマグネシウムやビタミンDとの組み合わせによって吸収率が高められます。
ミネラルのうちマグネシウム、亜鉛、銅、マンガン、セレンは補酵素としても働きます。
マグネシウムは多量元素のミネラルで、体内では60~65%は骨に含まれ、残りは肝臓、筋肉、血液などのタンパク質と結合して存在しています。300種類以上の酵素に作用する補酵素であり、筋肉の収縮、神経の興奮抑制、血管拡張による血圧降下などの作用があります。
亜鉛は栄養素の代謝や生命活動などに関わる化学反応に携わるミネラルで、200種類以上の酵素の構成成分であり、体内では皮膚、毛髪、肝臓、腎臓、睾丸、舌の味蕾などの新陳代謝が盛んな細胞に多く含まれます。不足すると新陳代謝の低下から皮膚炎、脱毛、爪の異常、味覚異常などが現れやすくなります。また、亜鉛は膵臓から分泌されるインスリンの構成成分で、インスリンの分泌量を調整して血糖値を下げる働きがあります。また、筋肉細胞がインスリンと反応してブドウ糖の取り込みを行う際に必要となります。
銅は微量元素の必須ミネラルの一種で、鉄の赤血球を作り出す働きを補助する成分であり、赤血球のヘモグロビンの合成には銅が含まれた酵素が必要になります。体内の過酸化物質を分解する酵素(SOD)の成分であり、細胞の酸化を防ぐ抗酸化作用があります。
マンガンは微量元素の必須ミネラルの一種で、骨の形成、消化の補助、糖質と脂質の代謝、成長や生殖を補助する成分となっています。体内の過酸化物質を分解する酵素の成分であり、細胞の酸化を防ぐ抗酸化作用があります。
セレンは微量元素の必須ミネラルの一種で、体内の過酸化物質を分解する酵素(グルタチオンペルオキシターゼ)の構成成分であり、細胞の酸化を防ぐ抗酸化作用があります。血圧を調整するホルモンのプロスタグランジンを作るために欠かせず、セレンの補給で細胞の老化を遅らせ、生活習慣病の予防につながります。ビタミンEとともに摂取すると抗酸化作用が高まることも知られています。

代謝に必要な成分の三大ヒトケミカルについては繰り返し紹介しています。三大ヒトケミカルはα‐リポ酸、L‐カルニチン、コエンザイムQ10を指していますが、「それ以外のヒトケミカルは何があるのか」という質問をメディア関係者からよくされます。代謝に関わる成分としてはビタミンとミネラルがありますが、ここではビタミンについて代謝の仕組みとともに紹介します。
食品として摂取したデンプンは、消化酵素によって単糖のブドウ糖にまで分解され、小腸から吸収されて、肝臓や筋肉などの組織にグリコーゲンとして蓄えられます。それ以外のブドウ糖はエネルギー源として使われます。ブドウ糖をエネルギーとするのは細胞内のミトコンドリアでブドウ糖がエネルギーに変換されるときには、体内に取り込まれた酸素を使わないままエネルギーとする解糖系の代謝と、酸素を使う有酸素系の代謝の2つの系統を経ています。
ブドウ糖は酵素の働きによってピルビン酸に変化し、その過程でエネルギーが発生します。ブドウ糖1分子当たり、2分子のエネルギー物質であるATP(アデノシン三リン酸)が発生します。酸素が使われない場合のほか、激しい運動によって酸素が不足したときにも解糖系のエネルギー代謝が行われます。
ピルビン酸は酵素の働きによって補酵素のアセチルCoAに変換され、これがミトコンドリア内のTCA回路に入ります。この回路でできたクエン酸が酸素との反応によって次々と変化し、二酸化炭素を発生させたあと、水と36分子のATPを発生させます。この代謝にビタミンが重要な役割を果たしています。
ビタミンは小腸から吸収されたのち、肝臓から血管を通って各組織に運ばれ、エネルギー源の代謝を補助する働きをします。水溶性ビタミンのビタミンB群とビタミンCは、酵素の働きを補う補酵素して働き、糖質、脂質、たんぱく質の代謝を促進します。
糖質がブドウ糖に分解されるときにはビタミンは関与していませんが、ブドウ糖がアセチルCoAに変換されるときにはビタミンB₁、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸が必要となります。
脂質が脂肪酸に分解されるときにはビオチンが働き、逆に脂肪酸が脂質に合成されるときにはナイアシンが働きます。また、脂肪酸がアセチルCoAに変換されるときにはビタミンB₂、ナイアシン、パントテン酸が必要になります。
たんぱく質がアミノ酸に分解されるときにはナイアシンが、逆にアミノ酸がたんぱく質に合成されるときにはビタミンB₆、ビタミンB₁₂、葉酸が必要になります。また、アミノ酸がアセチルCoAに変換されるときにはビタミンB₆が必要になります。
そして、アセチルCoAからエネルギー産生が行われるときにはビタミンB₁、ナイアシン、葉酸、ビタミンB₁₂が必要になります。このようにビタミンB群が組み合わされて、代謝が行われているわけです。
アセチルCoAは細胞のミトコンドリアの中でTCAサイクルの中でクエン酸から始まって、次々に別の酸に変化して、一周するとATPが発生します。アセチルCoAがクエン酸に変化するときにはビタミンB₁、ビタミンB₂、ナイアシン、パントテン酸が、クエン酸からイソクエン酸に変化するときにはビタミンB₂、ナイアシン、パントテン酸が、イソクエン酸からα‐ケトグルタル酸に変化するときにはナイアシンが、α‐ケトグルタル酸からスクシニルCoAに変化するときにはビタミンB₁、ナイアシン、パントテン酸が、スクシニルCoAからコハク酸に変化するときにはビタミンB₂が、コハク酸からフマル酸に変化するときにはビタミンB₂が、そしてリンゴ酸からオキサロ酢酸に変化するときにはビタミンB₂、ナイアシンが必要になります。
これらの変化による燃焼を促進するためにはビタミンB₆、ビタミンB₁₂も補酵素として使われるので、すべての水溶性ビタミンが必要だということがわかります。

生活習慣病に関わる検査数値が基準値を超えると、必ずといっていいほど医師などの医療関係者から指導されるのは、それぞれの数値に直接的に関係する栄養成分の制限です。糖尿病なら血糖値を上昇させるのはブドウ糖なので糖質制限、脂質異常症から脂肪酸の量を減らすために脂質制限ということが基本となるわけですが、これは「健康な患者」でいてもらい、できることなら基準値以下にして患者でもなくなるための重要な手段の一つです。
「健康な患者」というのは、基礎疾患と呼ばれる全身に影響を与える血圧、血糖、中性脂肪、LDLコレステロールなどに問題がない人などのことで、これらの数値に問題がなければ病気になりにくく、なったとしても治りやすいということです。
“健康”は自立して生活ができる状態を指しているので、血圧、血糖、中性脂肪、LDLコレステロールの数値が高くても、高血圧や糖尿病と診断されても病気ではなく、健康ということになります。これはWHO(世界保健機関)の定義で、厚生労働省も採用しています。病気とされるのは自立できなくなってからです。
「健康な患者」でいるためには、検査数値で異常が指摘されたときに、すぐに医薬品に頼るばかりでなく、食事の制限にも運動にも取り組むことが必要になります。食事の改善だけでは血圧、血糖値などは下がりにくく、そもそも数値に影響するような生活を過ごしてきたことが原因であるので、この食べる内容は、なかなか変えられないものです。ましてや先の定義から「糖尿病は健康」ということを知ると「おいしくないものは食べたくない」という考えになるのも仕方がないことです。
そこですすめられるのは運動ですが、運動といっても急にジョギングを始めたり、以前にやっていたスポーツを再開させることはありません。まずは運動量を増やすことから始めるべきで、すぐにエネルギーとして消費されやすいブドウ糖、中性脂肪は効果的に減らしていくことができます。
LDLコレステロールは食事で摂ったエネルギー量が多くなると、肝臓で多く合成されることによって増えていくので、食事で増えたブドウ糖、脂肪(中性脂肪)を運動で減らすことで値を下げることができます。運動をするとHDLコレステロールが増えた影響でLDLコレステロールが減ることが知られています。高血圧は興奮しすぎるような運動は数値を高めるものの、“適度な運動”は数値を下げる効果があります。
医師などから運動指導を受けるとき、よく言われるのが、この「適度な運動」です。“適度”と言われても身体の状態や状況、体力、運動経験などによって、できることとできないことがあります。例えば血糖値を下げるなら10〜15分間のウォーキングが効果的です。これならできないことはなくて、1日に何回か短いウォーキングをすればよいわけです。ところが、中性脂肪を減らすためには15〜30分間のウォーキングが必要です。これは有酸素運動によって初めのうちはブドウ糖が効果的に燃焼して、15分くらいを過ぎると脂肪酸が効果的に燃焼して中性脂肪値が下がるというメカニズムが身体の中にあるからです。
しかも、ゆっくりと歩いているのでは効果は低く、身体にかかる負荷が中強度の少し息が弾む程度のスピードが必要になります。30分間も中強度のウォーキングを続けることは不可能という人には、ポールを持って歩くノルディックスタイルの歩行が適しています。クロスカントリースキーのようにポールが後方に大きく送られてグイグイと歩くノルディックウォーキングだけでなく、前方にポールを突いて足と腕の力を使って足腰の負担を減らして歩くポールウォーキングでも、上半身を使うことから中強度の有酸素運動とすることができます。
健康な患者になるため、そして健康な患者にもならないようにするためには、続けられる運動が必要になることから、ノルディックスタイルのウォーキングは生活習慣病対策に用いられているわけです。