火蓋(ひぶた)は火縄銃の火皿を覆っている蓋のことで、これを開けて火薬に点火することを「火蓋を切る」といいます。火蓋を切らないと発砲することはできないので、そこから物事が始まることを表す言葉となりました。
では、今回のお題とした「火蓋を切って落とす」は、火蓋を切った後に何を落とすのかという疑問が湧いてくるかもしれませんが、この「火蓋を切って落とす」は誤用であるので、落とすものはありません。
正しい使い方は「火蓋を切る」という言葉だけです。
なぜ誤用が生じるようになったのかというと、「幕を切って落とす」と混同したのではないかと考えられています。幕を切って落とすは、演劇などの幕が開く様子を指していて、舞台にかけられている舞台と客席を仕切る緞帳(どんちょう)を切って落とすわけではありません。
言葉の誤用については、NHK放送文化研究所が文研の用語解説の中で、さまざまな見解を示しています。
本来は誤用である言葉について、慣用句といった表現で、間違っていても多くに使われていることで徐々に正しい意味として使われるようになるという見解も示しています。
しかし、「火蓋を切って落とす」は誤用であって、「幕を切る」「幕を切って落とす」の幕が火蓋と入れ替わって使われたとの見解を示しています。
ところが、文研の別のページでは、「幕を切る」は舞台の始まりではなくて終わりを指す表現であると説明しています。
終わりを示す言葉に「幕切れ」がありますが、切るというのは終わりの意味であって、始まりの意味はない、としています。
ということは、先の説明は何なのかという疑問も生じてくるところですが、言葉の扱いの難しさを表す一例として引用させてもらっています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕





