肥満症
1.肥満のメカニズム
1)肥満と肥満症の違い
生活習慣病の予防と改善のためには、太っている人の場合には、やせることを医師や栄養士などから指導されることが多いようです。しかし、生活習慣病のうち糖尿病、脂質異常症、肝臓病、高血圧などは必ずしもやせないと改善できない、治らないというわけではありません。ところが、肥満症だけは、やせないことには改善ができない病気とされています。
「肥満」という言葉は太っていることを指す言葉であり、太っていることだけで病気であるとは言えません。太っているから健康面で悪影響が出る状態だと決めつけられるものではありません。やせているよりも太っているほうが免疫力は高く、病気への抵抗力があり、環境がよくないところでも生き残りやすいのは太りぎみのだということが明らかにされています。
しかし、肥満の範囲を越えて、体脂肪が増えすぎて、肥満症の段階まで進むと病気として扱われることになり、治療が必要な段階となります。
日本肥満学会は2000年に肥満症の定義を「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併する、あるいは、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする病態」と定めています。同じ肥満の状態であっても病気の危険性がある場合が肥満症となるわけです。
肥満症では糖尿病の発症率が標準体型の人に比べて3倍以上、心臓や脳の血管疾患は2倍以上と生活習慣病の発症率が高くなり、治療による改善も遅れる傾向にあります。
肥満症の判断基準となっているのは、BMI(Body Mass Index)で、体格指数と訳されています。肥満症となるのはBMIが25以上となった場合で、標準体重ではBMIは22となっています。
BMI=体重kg÷(身長m)²
適正体重=身長m×身長m×22
日本肥満学会の肥満基準
状態 | 指標 |
---|---|
低体重(やせ型) | 18.5未満 |
普通体重 | 18.5以上、25未満 |
肥満1度 | 25以上、30未満 |
肥満2度 | 30以上、35未満 |
肥満3度 | 35以上、40未満 |
肥満4度 | 40以上 |
日本肥満学会では、ウエスト周囲径(ヘソ周囲径)が男性で85cm以上、女性で90cm以上を肥満症と推定する方法も用いられていますが、このウエスト周囲径はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準と同じ数値となっています。
BMIが誕生した欧米ではBMIが30以上を肥満としています。日本の基準が低くなっているのは、これまでに国民的に太った歴史がないこともあり、日本人の多くはBMIが25以上になると病気になりやすいという事実があるからです。日本人の場合、最も健康的なBMIは22で、標準体重と同様の指数となっています。
体重で肥満かどうかが判断されることもあるものの、体重は正常域にあっても筋肉は脂肪に比べて重さが2倍ほどになっているので、体重だけで判断されたら筋肉が多い人は肥満となってしまいます。そのため、体脂肪率を測定して肥満の判定が行われるのが大半です。
男性は体脂肪率が16~21%なら標準、22~24%なら太りすぎ、25%以上なら肥満とされます。女性の場合には、もともと体脂肪が多く蓄積されているので、20~25%なら標準、26~29%なら太りすぎ、30%以上なら肥満と判断されます。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
標準 | 16~21% | 20~25% |
太りすぎ | 22~24% | 26~29% |
肥満 | 25%以上 | 30%以上 |
2)肥満症の特徴
男性は腹部から太っていくのに対して、女性は皮下脂肪がつきやすいために腹部からは太りにくくなっています。男性は内臓脂肪型肥満、女性は皮下脂肪型肥満とタイプ分けされがちですが、皮下脂肪は蓄積される量に限度があることから、肥満症と呼ばれるほど太ると女性でも腹部に脂肪が多く蓄積されていきます。
肥満症では外面的な脂肪の蓄積だけでなく、血液中の脂肪の量も多くなっています。
「同じ体脂肪であっても、皮下脂肪は健康に大きく影響しないが、内臓脂肪は生活習慣病の要因になる」と言われます。
体脂肪は、ただ脂肪細胞の中に蓄積されたままではなく、体を動かしたり食事を減らしたときには脂肪酸に分解され、燃焼してエネルギーとして使われるために脂肪細胞の中から血液中に放出されます。そして、血液中で余分となった脂肪酸は脂肪細胞の中に取り込まれて体脂肪として蓄えられていきます。
「蓄積→分解→放出→蓄積」がスムーズに行われていれば、血液の脂肪酸の量は多くなりすぎず、血管に影響を与えて動脈硬化を引き起こすリスクも高まらないようになるわけですが、肥満状態では、食事から摂る脂肪の量が多くはなくても、血液中に放出される脂肪酸が多くなり、リスクを高めることになるのです。
2.病気を引き起こす内臓脂肪
1)肥満タイプ
肥満のタイプは一般には外観によって、りんご型肥満と洋なし型肥満の二つのタイプに大きく分けられています。
りんご型肥満は腹部から上に主に脂肪がたまるタイプで、いわゆる内臓脂肪型肥満で、男性に多く見られます。洋なし型肥満は腹部から下半身に脂肪がたまるタイプで、皮下脂肪型肥満で、女性に多くなっています。男性が洋なし型肥満になるのは腹部に相当に脂肪がついて下側にも蓄積された場合です。女性がりんご型肥満になるのは脂肪が多くなりすぎて、上半身の内臓脂肪が多く蓄積された場合です。
洋なし型肥満は皮下脂肪に脂肪が多く蓄積しているタイプで、生活習慣病の危険度が比較的低めとされています。それに対して、りんご型肥満は内臓脂肪が多く蓄積しているタイプで、内臓脂肪が多くなるほど生活習慣病の危険度が高まります。内臓脂肪は、内臓の周りについている脂肪のことで、腸の周りに特に多く築盛されています。
2)肥満による合併症
血液中の脂肪酸が増えると、肝臓で合成される中性脂肪が多くなります。中性脂肪が血液中で多くなると、血管壁に付着しやすくなり、血管が狭くなって、動脈硬化の要因となります。また、内臓脂肪が多いと肝臓が中性脂肪を次々と作り出すため、肝臓の負担も高まっていきます。さらに、この多く作られた中性脂肪が肝臓内に蓄積されるようになると、脂肪肝の危険性も高まっていきます。
肝臓には正常時には5%ほどの脂肪が蓄積されていますが、脂肪肝になると10%を超え、悪化した状態では30%以上になることもあります。脂肪が蓄積された部分の肝臓は機能が低下するため、肝臓のほかの部分の負担が大きくなり、これが肝臓を傷めることにもなっていきます。
血液中の中性脂肪が多くなると、ブドウ糖をエネルギー化するホルモンであるインスリンの働きが低下します。ブドウ糖は筋肉細胞に取り込まれてエネルギー化されますが、インスリンの働きが低下するとブドウ糖が筋肉細胞に取り込まれにくくなり、細胞の外側のブドウ糖が多くなります。このブドウ糖は血液中に戻って濃い状態になり、血糖値が大きく高まることになります。
血糖は血液中のブドウ糖のことで、その名はブドウから初めて発見されたことに由来します。血糖値が高い状態が長期間続くと、血管壁の細胞がもろくなり、細くて弱い細小血管を傷め、糖尿病の合併症である眼の網膜症、腎症、神経障害などを引き起こすことになります。
インスリンの働きが低下して、ブドウ糖の取り込みが低下すると、膵臓から分泌されるインスリンの量が多くなり、これによってブドウ糖のエネルギー化を進めようとします。しかし、ブドウ糖の取り込み能力は低下したままなので、血液中にはインスリンが多い状態となります。こうして高インスリン血症になると、腎臓はナトリウムを盛んに再吸収するようになって、血圧が高まるようになります。
肥満になって高血圧になる原因の一つとして、動脈の周りの体脂肪が多くなることで血管を圧迫して、血管の弾力が低下して、心臓から送られた血液が血管を押す力が強くなることもあげられています。
このように肥満は血管の負担を高める動脈硬化、糖尿病、高血圧へとつながっていくことから、脳血管疾患(脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳出血など)や心疾患(心筋梗塞、狭心症など)の要因となっているわけです。
3.肥満解消の食事のポイント
肥満を解消して、生活習慣病を予防・改善するためには、食事に関して以下のポイントがあげられます。
1)エネルギー源のバランス
脂肪が多く含まれる太りやすい食事を減らすことが肥満解消の第一と考えがちですが、健康的なダイエットのためにはエネルギー源(糖質、脂質、たんぱく質)のバランスが重要となります。摂取エネルギー量の理想的な割合は、糖質50~60%、脂質20~30%、たんぱく質15~20%となっています。
日本人の脂質の平均的な摂取量は25%を超えており、さらに肥満の場合には30%を超えている場合も少なくありません。「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)によると、脂質の摂取割合は30%までとされているものの、肉類に多い飽和脂肪酸は7%以下にすることが求められます。つまり、不飽和脂肪酸が豊富に含まれる植物油や魚類、中でも青背魚を食べる機会を増やすようにすることが必要になります。
外食で食べる料理は脂肪(油分)が多く含まれるメニューが目立っています。中でもフライ、てんぷら、から揚げなどは油の吸収率が高いためにエネルギー量が多い料理となっています。また、ラーメン、チャーハン、ドリア、スパゲッティのほか、オムレツなどの卵料理も油の使用量が多いためにエネルギー量が高くなっています。
同じたんぱく源でも、肉類に比べて魚介類、豆、大豆、大豆製品(納豆、豆腐)は低エネルギー量で多めに食べることができます。これらの食品が多く使われる和食を中心にした食事にすることで、脂肪の摂取量を減らして、エネルギー源のバランスを取ることができるようになります。
2)余分な脂肪を減らす
野菜は低エネルギー量で多くの量が食べられるため、肥満改善には有効となります。野菜サラダ(生野菜)は煮野菜に比べて食べる量が少なく、サラダに付き物のマヨネーズは大さじ1杯で約80kcal、フレンチドレッシングは約60kcalもあります。エネルギー量が低いノンオイルドレッシングや酢、柑橘類を上手に使用して摂取エネルギー量を抑えるようにしたいものです。
3)食物繊維を多く摂る
穀類、豆類、野菜には食物繊維が豊富に含まれています。食物繊維には水に溶けないタイプの不溶性食物繊維と、水を吸って膨らむタイプの水溶性食物繊維に大きく分けられます。不溶性食物繊維は野菜の葉や根に多く、食物繊維が腸壁を刺激して便通をよくする作用があります。水溶性食物繊維はキノコ、海藻、果物などに含まれ、胃の中で膨らむと余分な脂肪を包み込んで、体外に捨てる作用があります。
コンニャクは水溶性食物繊維に分類されますが、凝固剤を使って固めると、それ以上は形を変えることはありません。つまり、コンニャク粉は水溶性食物繊維ですが、商品として販売されているコンニャクは不溶性食物繊維になるということです。
胃の中に食物繊維があると糖質の分解が抑えられて、ゆっくりと吸収されるようになるので、血糖値の急上昇を抑えて、インスリンの急激な分泌が抑えられます。インスリンは肝臓での脂肪酸の合成を進め、中性脂肪を脂肪細胞にためる作用もあるため、食物繊維を多く摂ることで太りにくくする効果が得られます。
4)朝食をきちんと食べる
肥満解消やダイエットのために朝食を抜く人がいますが、朝食を抜くと空腹期間が長くなり、空腹を抱えたまま食事をすると、身体は消化を盛んにしてエネルギーの吸収を高めようとします。一食を抜くと、次の食事のあとにはインスリンの分泌量が増え、脂肪酸の合成量が増え、体脂肪が多く蓄積されるようになります。また、空腹を満たすために、たくさん食べるようになりがちなことも太る要因になっています。さらに、余分に間食をすることにもなるので、三食を同じ時間帯に食べる習慣をつけるようにします。
5)夕食を軽くする
朝食で摂ったエネルギー源の糖質や脂質(脂肪)は活動している間に消費されるため、多めに食べても他の食事に比べると太りにくくなっています。また、朝食を摂ると体温が上がり、代謝が高まり、1日を通じてのエネルギー消費量が増えます。それに対して夕食は寝ているときと翌日のためのエネルギーを蓄積するため、多くが体脂肪として蓄えられるようになっています。
夕食以降は体を動かす機会も少なく、夕食はエネルギー量の少ないものにして、遅くとも寝る3時間くらい前には食事を終わるようにします。その代わりに朝食を、しっかりと食べるようにします。また、よく噛んで食べることは、早食い、食べすぎを防ぐことにもなるので、時間をかけて食べることも心がけます。
6)アルコール飲料を控える
アルコール飲料はエネルギー量が高く、食欲を増進させる作用があるために食べすぎの要因になります。ビールのエネルギー量はグラス1杯で約80kcalとなり、同じエネルギー量の日本酒ではグラス半分以下の量となります。飲酒時のおかずは高エネルギーのものが多いので、飲酒での食事は摂取エネルギー量が増えがちです。アルコールは肝臓で優先的に分解されるため、糖質や脂質のエネルギー化が遅れるようになって脂肪の蓄積が増え、これも太る原因となっています。
肥満(ダイエット)対策サプリメント
1)脂肪分解抑制
脂肪は胆汁酸によって包まれた胆汁酸ミセルとなって小腸に運ばれ、胆汁酸ミセルから脂肪が放出されて吸収されますが、胆汁酸ミセルを安定化させて、脂肪の放出を抑えます。また、脂肪を吸着して排泄させる作用もあります。
○脂肪分解抑制作用のある素材
シクロデキストリン/難消化性デキストリン
2)脂肪吸収抑制
脂肪を吸着する作用のある素材によって、脂肪の結合を大きなサイズにして、小腸からの吸収を抑制させます。(キチン・キトサン)
脂肪はグリセロールと脂肪酸が結びついて構成されていますが、中鎖脂肪酸は吸収される脂肪酸が少なく、早く燃焼するため、これまでと同じ量の脂肪に換えて使用した場合には吸収量が抑えられます。
チアシードは水分を吸収して膨らみ、胃で感じる満腹を感じやすくさせるとともに、水溶性食物繊維の作用によって脂肪の吸収を抑制します。
○脂肪吸収抑制作用のある素材
キチン・キトサン/中鎖脂肪酸/チアシード
3)脂肪合成抑制
肝臓では、脂質のほかに、たんぱく質、糖質(炭水化物)を材料に中性脂肪が合成されていますが、その合成を抑制します。
○脂肪合成抑制作用のある素材
ガルシニア/紅麹
4)脂肪分解促進
脂肪細胞に蓄積された中性脂肪の分解を促進して、脂肪酸を血液中に放出します。β3アドレナリン受容体の反応低下によって運動をしてもホルモン感受性リパーゼが活性されにくく、中性脂肪が分解されにくい場合であっても、受容体を経由せずに分解を促進させます。
○脂肪分解作用のある素材
キノコキトサン/コレウスフォルスコリ
5)脂肪取り込み促進
血液中に放出された脂肪酸を筋肉細胞に取り込み、燃焼を促進します。
○脂肪燃焼作用のある素材
α‐リポ酸/L‐カルニチン
6)脂肪燃焼促進
筋肉細胞に取り込まれた脂肪酸の燃焼を促進します。
○脂肪燃焼作用のある素材
カプサイシン/ビタミンB₂
分岐鎖アミノ酸:BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)
7)ATP生成
エネルギー代謝によって発生するATP(アデノシン三リン酸)の生成を促進して、脂肪を燃焼させます。
○ATP生成作用のある素材
コエンザイムQ10/クレアチン/パントテン酸