脂質異常症(高中性脂肪)
1.脂質異常症の基礎知識
1)脂質異常症と中性脂肪
血液検査を受けて、中性脂肪の検査数値が高いことが指摘されるような状態になっても、これといった自覚症状はみられません。しかし、中性脂肪値が高いまま長期間放置しておくと、血管の老化が進み、動脈硬化から心疾患、脳血管疾患へと進んでいくことになりかねません。
心疾患という病名は「心」と「疾患」と書くため、心の病気、精神疾患と勘違いされることもあるようですが、心筋梗塞、狭心症などの心臓病のことを指しています。
血液中に存在する脂質には中性脂肪、コレステロール、リン脂質、遊離脂肪酸などの種類があります。中性脂肪という名称は、英語名のトリグリセリド(triglyceride)を訳したもので、酸性、中性、アルカリ性という分類の中性とは関係がありません。
グリセリドと呼ばれる脂質1個に、脂肪酸が3個結びついたものがトリグリセリドです。
中性脂肪は、エネルギーを体内に貯蔵するための形態であり、血液中を流れる脂肪や体脂肪の内臓脂肪と皮下脂肪もほとんどが中性脂肪となっています。血液中の中性脂肪が過剰に増えた状態を高トリグリセリド血症といい、中性脂肪とLDLコレステロール(低比重リポたんぱく)のどちらか、あるいは両方が過剰に増えた状態、並びにHDLコレステロール(高比重リポたんぱく)が低い状態を合わせて脂質異常症といいます。
脂質異常症は、以前は高脂血症と呼ばれ、2007年に病名が変更となりました。リポたんぱくの中でも、HDLコレステロールは多いほうが動脈硬化のリスクが低下するため、高脂血症という名前はそぐわなくなり、日本動脈硬化学会によって脂質異常症と名づけられました。
それに伴い、検査基準の中から高コレステロール血症がはずされ、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症の3つが、脂質異常症の診断基準となりました。
脂質は水には溶けにくく、血液は水成分であるために、親水性のよいたんぱく質、リン脂質、コレステロールが結合したリポたんぱくの形で血液中を運ばれています。リポたんぱくは成分比重の違いから、カイロミクロン、超低比重リポたんぱく(VLDL)、低比重リポたんぱく(LDL)、高比重リポたんぱく(HDL)に分けられており、それぞれ体内での作用が異なっています。
このうち主に中性脂肪を運ぶ役割をしているのがカイロミクロンとVLDLで、コレステロールを運ぶのがLDLコレステロールとHDLコレステロールです。LDLコレステロールが多くなると動脈硬化のリスクが高まることから一般には悪玉コレステロール、HDLコレステロールが多くなると動脈硬化のリスクが下がることから善玉コレステロールと呼ばれています。
悪玉コレステロールが動脈硬化の要因となっていることが知られると、コレステロールは悪いものと考える人も出てきました。しかし、コレステロールは全身の細胞膜の材料であり、ホルモンの原料になり、さらに脂肪を分解する胆汁酸の材料にもなります。コレステロールは身体に必要なもので、決して悪いものではないことは知っておくべきです。
2)中性脂肪が増える原因
健康な人の血液中の中性脂肪(トリグリセリド)量は50~149mg/dlで、150mg/dl以上を超えると高トリグリセリド血症と診断されます。
健康診断で中性脂肪値が高いことを指摘されると、脂肪が多く含まれる食品を減らして、食事で摂取する脂肪の量を減らすように心がける人が多いようです。「脂肪が多いのだから脂肪を減らせばよい」という発想ですが、食事で摂る脂肪を控えれば、血液中の中性脂肪が単純に減るというわけではありません。
食事で摂った脂質は、小腸から吸収されてカイロミクロンとなるため、脂質の多い食事をすると血液中にカイロミクロンが増えます。しかし、カイロミクロンは食事をして数時間で、ほとんどが各組織のエネルギーとして使われます。
中性脂肪の検査は、空腹時(12時間以上は何も食べていない状態)に行われるため、検査で計測される中性脂肪はカイロミクロンではなく、中性脂肪は食事で摂った脂質との関わりは少ないのです。
中性脂肪値に影響しているのは、食事で摂った糖質です。中性脂肪は、食事で摂った糖質のうちエネルギーとして使われなかったものを材料にして、肝臓で合成されています。
中性脂肪の肝臓での合成は、アルコールの摂取によっても促進されます。また、肥満の人は、脂肪細胞の中で分解された脂肪酸が血液中に放出され、この脂肪酸を原料にして肝臓で中性脂肪が合成されます。
このほかにも、糖尿病、肝臓病、腎臓病、痛風などによっても、高トリグリセリド血症になることがあります。
2.高中性脂肪の危険性
1)動脈硬化の危険因子
中性脂肪の数値が正常範囲を超えても、すぐに身体に悪影響が出るわけではありません。しかし、血液中の中性脂肪が増加した状態が長く続くと、動脈硬化のリスクが高まります。血液中の中性脂肪が増えると、HDLコレステロールが減り、その結果としてLDLコレステロールが増えて、コレステロールが血管壁にたまりやすくなります。
動脈硬化になると血管の内壁が徐々に厚くなり、硬くなって弾力性が弱まり、血管の内側が狭くなっていきます。また、血小板の凝集が促進され、血栓ができやすくなります。そして、血管の内径が狭くなったところに血栓ができると詰まりやすくなります。
動脈硬化は、日本人の死因の第2位、第4位を占める心疾患と脳血管疾患の原因ともなるだけに、決して軽く見ることはできません。以前は脳血管疾患が第3位でしたが、国民の高齢化が進んだ結果、肺炎が第3位となり、第4位となりました。
中性脂肪値が高いうえに、LDLコレステロール値が高く、高血圧、糖尿病などの危険因子が重なると、さらに動脈硬化のリスクが増大します。
高トリグリセリド血症のうち治療が必要となるのは、血液中の中性脂肪が150mg/dl以上となったときですが、中性脂肪は男性の場合、加齢に伴って増加する傾向があり、中年太りの原因となっています。女性は、男性に比べて中性脂肪値が低い傾向にあるものの、閉経後にはLDLコレステロール値が高くなり、中性脂肪値も高くなるために動脈硬化の危険性も高まっていきます。
2)日本人は高トリグリセリド血症の危険度が高い
中性脂肪値と虚血性心疾患の死亡率を日本人とアメリカ人で比較すると、100mg/dlの危険度を基準の1としたとき、日本人では140mg/dlで2倍、180mg/dlで3倍、250mg/dlで5倍となります。アメリカ人は250mg/dlでは1.7倍と日本人のほうが中性脂肪値が上昇したときの虚血性心疾患の危険度が非常に高くなっています。
虚血性心疾患は、心臓の筋肉(心筋)に血液を送る冠状動脈が狭くなったり、塞がるなどして心筋に酸素が充分に送られなくなって酸素不足になる状態をいいます。冠状動脈が狭くなって一時的に酸素不足になるのが狭心症、冠状動脈が完全に詰まるのが心筋梗塞です。冠状動脈は3本あるので、1本が詰まっても心臓が止まることはありません。
虚血性心疾患による死亡者の約85%は65歳以上となっています。75歳未満では男性に多くみられ、75歳以上では男女の差は小さくなり、85歳以上ではほぼ同じ発症率になります。
日本人の食生活は歴史的に脂肪が少なかったために、脂肪による健康被害を妨げる能力が低いとされます。脂肪の摂取量が歴史的に多かった欧米人は、脂肪をエネルギーとする能力が高く、余分となった脂肪を脂肪細胞の中に蓄積していく能力も高くなっています。つまり、脂肪を多く蓄えて太ることができるわけです。
日本人は欧米人のようには太ることができないので、食事で摂る脂肪や肝臓で合成される脂肪が多くなると、血液中の中性脂肪が多くなる体質であり、動脈硬化になる危険性が高いということがいえます。
3.中性脂肪改善の食事のポイント
中性脂肪値が高いと指摘された人は、食事の改善が求められます。
脂質異常症を予防し、改善するために食事に関して以下のポイントがあげられます。
1)適正なエネルギーの摂取
肥満は血液中の中性脂肪を増やすだけでなく、他の生活習慣病の原因にもなります。肥満の場合には、まずは減量が必要です。また、肥満でない場合にも、肥満を予防するための食生活を身につけることが大切になります。そのためには自分の適正なエネルギー量を知り、食べすぎないようにすることです。
1日の適正なエネルギー量は性別、年齢、活動量などによっても異なりますが、肥満の人の場合には標準体重1kg当たり25~30kcal、肥満でない人は標準体重1kg当たり30~35kcalを目安にします。標準体重は「身長(m)×身長(m)×22」で求められます。例えば、身長160cmであれば、標準体重は「1.6×1.6×22=56kg」となり、肥満の人では1400~1700kcalの食事量が適正だということになります。
2)アルコールは控える
アルコールは肝臓での中性脂肪の合成を高め、血液中の中性脂肪を増加させます。また、アルコール飲料はエネルギー量が高いことに加えて、飲酒時のおかずは高エネルギー量のものになりやすいため、エネルギー摂取量が多くなりがちです。中性脂肪値が少し高めという状態であっても、飲酒の回数を減らすか、1回に飲む量を減らすようにします。
3)菓子・清涼飲料・果物などは控えめに
果物に含まれている果糖、砂糖に含まれているショ糖などの単糖は中性脂肪に変わりやすいため、単糖が含まれる甘い菓子や果物などは摂りすぎには注意が必要です。夕食後に菓子や果物を摂ると中性脂肪値が高まりやすくなります。最も中性脂肪値に影響するのは果糖や砂糖の入った飲料です。飲み物は単糖の吸収が早いため、できれば避けます。
4)脂質の摂りすぎに注意
脂質は、植物油大さじ1杯(12g)で約100kcalと高エネルギー量のため、油を使った料理は高エネルギーになりがちです。例えば、揚げ物に使われている油の量は、とんかつ(1人前)12g、フライドポテト(Mサイズ)20g、てんぷら(1人前)15gと多いため、食べる回数を少なくします。バター、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシングなど油が多い調味料も控えめにします。
5)魚食を増やす
青魚の脂肪に多く含まれる脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)は、肝臓での脂肪の合成を抑えて、血液中の中性脂肪を下げる作用があります。また、血栓の予防にも役立つため、動脈硬化と、動脈硬化が要因になっている心筋梗塞や脳梗塞などの予防にもなります。
6)食物繊維を多く摂る
海藻、キノコ、穀類、豆類、野菜などに多く含まれる食物繊維は、腸内で中性脂肪や糖質を吸着して一緒に排泄する働きがあります。また、食物繊維は水分を吸って膨らむため、満腹感が得やすくなります。
7)夕食の食べすぎに注意
夕食を多く食べると、1日のトータルのエネルギー摂取量が低くても、脂肪の合成が進み、中性脂肪値が高くなる傾向があります。中性脂肪は就寝中に多く作られるので、夕食の食べすぎには注意が必要です。
4.動脈硬化予防のための食事のポイント
動脈硬化を予防するためには、中性脂肪を減らす食事とともに、次のポイントも重要となります。
1)コレステロールを増やす食品を控える
高トリグリセリド血症は動脈硬化の危険因子の一つですが、ほかに高LDLコレステロール血症、高血圧、糖尿病なども動脈硬化を促進させます。動脈硬化を予防するためには、次のことに注意が必要となります。
肉類などの動物性脂肪には飽和脂肪酸が多く含まれ、これが肝臓で合成されるコレステロールの材料になります。また、コレステロールの多い肉の脂身、バター、牛乳なども控えます。イカ、エビ、タコ、カニなどにも多くのコレステロールが含まれていますが、これらの食品にはコレステロール低下作用があるアミノ酸のタウリンが含まれているため、コレステロールの増加には、あまり影響がありません。
2)抗酸化成分を含む食品を摂る
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は活性酸素によって酸化することで動脈硬化が進みやすくなります。LDLコレステロールが酸化すると変性LDLコレステロールになり、これをマクロファージが取り込んだ後に活動が止まると血管に入り込んで、動脈硬化を進めていきます。LDLコレステロールの酸化を防ぐのが抗酸化成分です。例えば、抗酸化成分のβ-カロテンは緑黄色野菜に、リコピンはトマトに、イソフラボンは大豆に、ビタミンCは野菜や果物に、ビタミンEは種や豆、卵、植物油に含まれています。
3)塩分を控える
塩分の摂りすぎは高血圧の要因であり、高血圧は動脈硬化の危険因子になっています。漬物、佃煮、塩魚、チーズなどの塩分の多い食品や加工食品、濃い味付けの料理などに注意します。食物繊維には塩分(ナトリウム)を排出する作用があり、野菜や海藻に多く含まれるミネラルのカリウムは血液中のナトリウムを尿中に排泄させ、血圧を下げる作用があります。
4)運動と禁煙の実施
HDLコレステロール(善玉コレステロール)を積極的に増やす食品はないものの、運動によってHDLコレステロールを増やすことができます。運動をしてHDLコレステロールが増えると、LDLコレステロールが減っていくのが通常の反応です。LDLコレステロールは全身にコレステロールを運び、HDLコレステロールは血液中で余分となったコレステロールを運び去る働きがあり、HDLコレステロールの増加は動脈硬化の予防につながります。喫煙はHDLコレステロールを減らし、LDLコレステロールや中性脂肪を増やすので、禁煙することが大切です。
5.中性脂肪対策のサプリメント
1)脂肪分解抑制
腸内の余分な脂質を吸着して排出します。(シクロデキストリン)
脂肪は胆汁酸によって包まれた胆汁酸ミセルとなって小腸に運ばれ、胆汁酸ミセルから脂肪が放出されて吸収されますが、胆汁酸ミセルを安定化させて、脂肪の放出を抑えます。(難消化性デキストリン)
○脂肪分解抑制作用のある素材
シクロデキストリン/難消化性デキストリン
2)脂肪吸収抑制
脂肪を吸着する作用のある素材によって、脂肪の結合を大きなサイズにして、小腸からの吸収を抑制します。(キチン・キトサン)
脂肪はグリセロールと脂肪酸が結びついて構成されていますが、中鎖脂肪酸は吸収される脂肪酸が少なく、早く燃焼するため、これまでと同じ量の脂肪に換えて使用した場合には吸収量が抑えられます。
チアシードは水分を吸収して膨らみ、脂肪の吸収を抑制します。
○脂肪吸収抑制作用のある素材
キチン・キトサン/中鎖脂肪酸/チアシード
3)脂肪合成抑制
肝臓では、脂質のほかに、たんぱく質、糖質(炭水化物)を材料に中性脂肪が合成されていますが、その合成を抑制します。
○脂肪合成抑制作用のある素材
ガルシニア/紅麹
4)脂肪分解促進
脂肪細胞に蓄積された中性脂肪の分解を促進して、脂肪酸を血液中に放出します。β3アドレナリン受容体の反応低下によって運動をしてもホルモン感受性リパーゼが活性されにくく、中性脂肪が分解されにくい場合であっても、受容体を経由せずに分解を促進させます。
○脂肪分解作用のある素材
キノコキトサン/コレウスフォルスコリ
5)脂肪燃焼促進
血液中に放出された脂肪酸を筋肉細胞に取り込み、燃焼を促進します。
○脂肪燃焼作用のある素材
α‐リポ酸/L‐カルニチン/カプサイシン/ビタミンB₂
分岐鎖アミノ酸:BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)
6)ATP生成
エネルギー代謝によって発生するATP(アデノシン三リン酸)の生成を促進して、脂肪を燃焼させます。
○ATP生成作用のある素材
クレアチン/コエンザイムQ10/パントテン酸