「お」がつく物とつかない物

似たようなものなのに、片方には名称の前に「お」がつき、もう一方にはつかないものがあります。こんな話題を書くときには、気を引くような話にかこつけて、何か主張をしようと思っているのではないかと、すでに勘のいい人には気づかれていますが、何を主張しているのかは最後まで読んでもらえればと思います。
前に登場したぜんざいは「おぜんざい」、しるこは「おしるこ」と「お」がつけられます。おにぎりとおむすびは、にぎり、むすびとは呼ばないのが通例で、初めから「お」がつけられています。おにぎりとおむすびというと、三角形がおにぎりで、俵型がおむすびという印象があります。これは「おむすびコロリン」と言うことはあっても「おにぎりコロリン」とは言わないので、転がるほうがおむすびと使い分けられています。
しかし、今どきは、おにぎりを買う場所といえば圧倒的にコンビニなので、あまり上品な食べ物というよりも空腹を満たす食べ物というイメージも抱かれがちです。コンビニのおにぎりについて調べていたら、セブンイレブンとローソンはおにぎりと呼んでいるのですが、フォミリーマートはおむすびを使っています。ファミリーマートと経営統合するサークルKサンクスは“おむすび道”という名称でおにぎりを販売しています。こうなると現在では、おにぎりもおむすびも同じものを呼んでいるわけで、中身に違いはないという時代になってきているようです。
日本メディカルダイエット支援機構の理事長は、納豆と豆腐の業界をあげてのPR事業でメディア向けと流通向けの毎月のリリースを手がけていましたが、そのときに「お豆腐」と呼ぶのに「お納豆」と呼ばないことから、その違いは何なのかの提言をしていました。業界からの反応を期待していたのですが、特にはなかったので、“上品なものに「お」がつけられる”と勝手に理解して、リリースでも説明をしていました。豆腐は上品の極みの懐石料理の食材ですが、懐石料理に納豆というのはあまり聞きません。この説には業界関係者から「お油揚げ、お湯葉とは言わないが懐石料理に使われている」とツッコミがありました。
「お大根」と言うのに「お人参」とは言わないし、「お大豆」と言うのに「お黒豆」とは言いません。人参も黒豆も懐石料理の定番食材の一つです。“上品なものに「お」”というのはイメージの問題で、確信を持っての発言ではなく、これをきっかけにして論議が高まればという思いだったので、その意味では成功したかもしれません。
煮しめには「お」がつけられます。それと似たような筑前煮には「お」がつけられません。お煮しめは京料理、筑前煮は九州・筑前地方の料理という分け方もあります。調理法の違いも明らかで、材料はレンコン、ゴボウ、ニンジン、しいたけが共通していますが、お煮しめは一つひとつの材料を別々に煮て、それぞれの材料の硬さに合わせ、味を引き立てるように加熱温度と調理時間が決められています。1時間以上の時間がかかるものもあります。
筑前煮には鶏肉と里芋が使われていますが、お煮しめのようにコトコトと煮ていくというよりも、まず油で炒めて、それから全部の材料を一緒に煮ていきます。そのために30分以下でも作ることができます。
手間暇がかかるものは、それを作ってくれた人への強い感謝の意を示すために「お」をつけたという解釈はどうでしょうか。