生活習慣病に関わる検査数値が基準値を超えると、必ずといっていいほど医師などの医療関係者から指導されるのは、それぞれの数値に直接的に関係する栄養成分の制限です。糖尿病なら血糖値を上昇させるのはブドウ糖なので糖質制限、脂質異常症から脂肪酸の量を減らすために脂質制限ということが基本となるわけですが、これは「健康な患者」でいてもらい、できることなら基準値以下にして患者でもなくなるための重要な手段の一つです。
「健康な患者」というのは、基礎疾患と呼ばれる全身に影響を与える血圧、血糖、中性脂肪、LDLコレステロールなどに問題がない人などのことで、これらの数値に問題がなければ病気になりにくく、なったとしても治りやすいということです。
“健康”は自立して生活ができる状態を指しているので、血圧、血糖、中性脂肪、LDLコレステロールの数値が高くても、高血圧や糖尿病と診断されても病気ではなく、健康ということになります。これはWHO(世界保健機関)の定義で、厚生労働省も採用しています。病気とされるのは自立できなくなってからです。
「健康な患者」でいるためには、検査数値で異常が指摘されたときに、すぐに医薬品に頼るばかりでなく、食事の制限にも運動にも取り組むことが必要になります。食事の改善だけでは血圧、血糖値などは下がりにくく、そもそも数値に影響するような生活を過ごしてきたことが原因であるので、この食べる内容は、なかなか変えられないものです。ましてや先の定義から「糖尿病は健康」ということを知ると「おいしくないものは食べたくない」という考えになるのも仕方がないことです。
そこですすめられるのは運動ですが、運動といっても急にジョギングを始めたり、以前にやっていたスポーツを再開させることはありません。まずは運動量を増やすことから始めるべきで、すぐにエネルギーとして消費されやすいブドウ糖、中性脂肪は効果的に減らしていくことができます。
LDLコレステロールは食事で摂ったエネルギー量が多くなると、肝臓で多く合成されることによって増えていくので、食事で増えたブドウ糖、脂肪(中性脂肪)を運動で減らすことで値を下げることができます。運動をするとHDLコレステロールが増えた影響でLDLコレステロールが減ることが知られています。高血圧は興奮しすぎるような運動は数値を高めるものの、“適度な運動”は数値を下げる効果があります。
医師などから運動指導を受けるとき、よく言われるのが、この「適度な運動」です。“適度”と言われても身体の状態や状況、体力、運動経験などによって、できることとできないことがあります。例えば血糖値を下げるなら10〜15分間のウォーキングが効果的です。これならできないことはなくて、1日に何回か短いウォーキングをすればよいわけです。ところが、中性脂肪を減らすためには15〜30分間のウォーキングが必要です。これは有酸素運動によって初めのうちはブドウ糖が効果的に燃焼して、15分くらいを過ぎると脂肪酸が効果的に燃焼して中性脂肪値が下がるというメカニズムが身体の中にあるからです。
しかも、ゆっくりと歩いているのでは効果は低く、身体にかかる負荷が中強度の少し息が弾む程度のスピードが必要になります。30分間も中強度のウォーキングを続けることは不可能という人には、ポールを持って歩くノルディックスタイルの歩行が適しています。クロスカントリースキーのようにポールが後方に大きく送られてグイグイと歩くノルディックウォーキングだけでなく、前方にポールを突いて足と腕の力を使って足腰の負担を減らして歩くポールウォーキングでも、上半身を使うことから中強度の有酸素運動とすることができます。
健康な患者になるため、そして健康な患者にもならないようにするためには、続けられる運動が必要になることから、ノルディックスタイルのウォーキングは生活習慣病対策に用いられているわけです。