「豚のように太っている」は正しい表現か

ダイエットに関連する仕事をしていると「豚のようにブクブクと太って」ということを言う人と会う機会が増えます。自分のことを卑下して言ったり、なかなかダイエットに成功しない自分に対して戒めのように使う言葉ならまだしも、他人に対して使う人がいると、これは困りものです。そんな人には「豚は太っていない」ということを話すようにしています。
豚は体型的には丸くっこく、愛らしいスタイルをしています。豚の脂身という言葉があるので、豚の身体は脂肪が多いように思われがちです。しかし、体脂肪率を見ると14〜18%と、思ったよりも太っていなくて、筋肉質と言ってもいいくらいです。ひょっとすると、「豚みたいに」と発言した人よりも体脂肪率が低いかもしれないのです。
豚と並んで揶揄するときに登場する牛は、食べてすぐに寝ると太るというように言われますが、そんなことをしていただけではなくても牛の体脂肪率は30%以上にもなっています。2倍ほどの体脂肪率となると、牛肉が太りやすいとされるのもわかります。
豚肉と牛肉を比べると豚肉のほうが軟らかくなっていますが、これは脂肪酸の割合が関係していて、動物性食品に多い飽和脂肪酸の割合が牛肉よりも少なくて、その分だけ不飽和脂肪酸が多くなっています。飽和脂肪酸は血液ドロドロ系の脂肪、不飽和脂肪酸は血液サラサラ系の脂肪と一般には分けて使われています。不飽和脂肪酸は魚や植物油に多い脂肪酸で、動脈硬化のリスクを低くする脂肪酸となっています。
沖縄県が長寿であったのは昔から豚肉を食べてきたからで、現在は平均寿命ランキングが下がってきたのは牛肉を多く食べるようになったからと言われます。その理由として、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の量があげられています。
ここで人間の体脂肪率の話をすると、日本人の成人男性の標準の体脂肪率は10〜20%未満で、女性は20〜30%未満となっています。これを見ると、豚の体脂肪率は男性とほぼ同様で、牛は女性の場合なら肥満となる体脂肪率となっています。
豚は体脂肪率が低いといっても脂肪の含有量は部位によって異なるのは当然のこと。脂肪の層が見えるバラ肉は33%と多めでも、肩ロースは17%、ヒレ肉は15%、もも肉は10%となっています。なるべく脂肪が少ない部位を使うほうがよいといっても、脂肪が多く含まれているほどおいしいことから、ある程度の脂肪の摂取は仕方がないことです。
豚肉は脂肪が多い部位だといっても脂肪が見えやすいので、多いものは避ける、切り落とすということで対処しやすくなっています。ところが、牛肉はサシが入ったものが珍重され、赤身肉の中に脂肪が点在していて、なかなか切り落として食べるというわけにはいきません。硬めの肉を軟らかくして食べる工夫の一つではあるのですが、これが牛の体脂肪率を増やした要因とされています。
人間の場合にサシは入るのかというと、普通の太り方をしていると内臓脂肪と皮下脂肪が増えるだけです。しかし、あまりに身体を動かさない生活をしていると筋肉の中の脂肪が増えてきて、「豚のように」ではなく、「牛のようにブクブクと太る」ということにもなりかねないのです。