「転ばぬ先」の先の“杖”

転ばぬ先の杖は、失敗しないように、万が一に備えて充分に準備しておくことを指したことわざです。まだまだ杖などなくても普通に歩けるはずなのに、杖をついて歩けと言われても、実際には杖を使う人はいないでしょう。杖をついて歩くことで、杖なしで不安定なまま歩くよりも筋肉が刺激され、歩く能力を低下させないことはできます。そう言われても、積極的に杖を使おうとは思わないでしょう。それくらい杖をつきながら歩くことは“かっこ悪い”ことだからです。
杖をついて歩くと、正しい歩行姿勢と言われる左右のバランスを取って、前後に大きく上を振りながら歩くということはできません。杖をついている人を見ると、左右に身体が触れています。歩くというのは運動エネルギーを進行方向に効率よく進めて行くもので、身体が左右に動いたら動いた分だけ、前方向へのエネルギーが弱まってしまいます。となると杖は転ばないためには必要であっても、転ばないような丈夫な足腰のためには使わないほうがよい、ということにもなってしまいます。
そこでノルディックウォーキングのポールの話ですが、ある地方の駅に着いて、持ち運び用に短くしておいたポールを伸ばしていたときのこと、「その杖は、どこで売っていますか」と高齢の方に声をかけられました。これは杖ではなくポールだという話、ノルディックウォーキングの話をさせてもらいましたが、2本の杖をついて歩くようにしたいと言われていました。
杖は上側を持って足腰の負担を減らして歩くようにするものですが、ノルディックスタイルのポールは横から手を添えて握る形でポールを支えます。腕を使って歩くことによって足腰の負担が減り、前方向への運動エネルギーが大きく働くために歩行姿勢がきれいになり、転びにくくなります。
ウォーキングは通常は足の感覚と視覚、聴覚も使って歩いていますが、ノルディックスタイルのウォーキングはポールを持って歩いていることで、ポールに伝わる道路の状況もプラスされて、さらに状況を把握する能力が加わって安心して歩くことができます。ポールを使って歩くと、歩幅が広がり、かかとから着地してつま先が上がるので、足先が引っかかりにくくなります。もちろん、ポールを持っていることで思わぬ道路の状況や歩く本人の感覚的なことから軽くつまずきそうなことがあっても、ポールによって姿勢を保ち、転ばないようにすることもできます。
ポールを使いながら歩くのは、ノルディックスタイルのウォーキングが知られていない地域では“杖”と思われるかもしれませんが、どう見てもスポーティーで運動の要素があるので、見ている人に説明をすれば杖ではないことはわかってもらえます。杖ならぬポールを使って歩いていると、杖がいらないように足腰を鍛えることができます。これこそが転ばぬ先の杖であり、先回りして転ばないようにするために是非とも進めたい方法です。