食事指導をするときには、80kcal(キロカロリー)を基本として、1単位という表現がされています。そもそも単位というカウント方式を採用するということは、わかりにくいからですが、80kcalが登場する前は100kcalが採用されていたので、単位という考え方はされていませんでした。日本の栄養学の基本は、ドイツからもたらされました。そのことを教示してくれたのは、慶應義塾大学のスポーツ医学研究センターの山下光雄先生です。
日本の100kcal栄養学の祖とされる森鴎外は文豪として知られていますが、軍医であり、ドイツから栄養学の基本を学んできました。その栄養学の単位は100kcalでした。国立栄養研究所の初代所長の佐伯矩(さえきただす)医学博士は、佐伯栄養専門学校の創設者ですが、そのときの栄養教育の基本は100kcalでした。その伝統から、軍隊の食事は100kcal単位で実践されてきました。
戦前の栄養学は100kcalだったのですが、終戦後には食糧難から肥料も飼料も少なくなり、かつては1個が100kcalだった卵が80kcalほどになり、切り身も小さくなって皿に乗る食品のエネルギー量は80kcal前後となりました。このことを戦後の日本栄養食糧学会で発表した研究者が戦後の緊急装置として80kcalを提案しました。それを栄養教育として女子栄養大学が採用し、日本糖尿病学会が低エネルギー摂取の食事として採用したことから、80kcalが一般に広まり、八進法ではわかりにくいことから十進法の単位という考え方が出てきました。
日本循環器学会は治療の一環として、100kcalの食事と100kcalの運動を基本として打ち出しました。食事と運動が同じ単位なら計算しやすく、指導もしやすいことになります。80kcalにこだわるのは、栄養学は戦後が終わってないと言われても仕方がないということです。
終戦直後に比べるとエネルギー量が増えて、100kcalに近づいています。ご飯は茶碗に軽く1杯が200kcalで、パンは関西で主流の5枚切り1枚が200kcal、麺類は1玉が約300kcalです。肉も魚も一切れが100kcal前後です。牛乳はコップ1杯が約100kcalです。リンゴは中サイズ1個が約100kcalとなっています。