東京にいたときのこと、時代考証を仕事とする人と何度か仕事をしていました。その当時は作家団体の理事を務めていて、“江戸を歩く”という趣味活動をしている作家や編集者もいれば、時代小説の作家と時代考証家の集まりもあって、よく参加していました。当時の私は“酒のペンクラブ”の会員でもあって、江戸時代から続く飲み屋、その伝統を受け継いでいる飲み屋にも詳しかったので、よく集まりに呼ばれていました。
そのときに交わした話で、特に記憶として鮮明に残っているのは、時代考証(歴史考証とも)のとおりにしたくても、読者や一般の方々の印象と違っている事実を、どのように扱うかという議論でした。
時代考証の専門家といっても、江戸時代に生きていたわけではないので、自分自身の経験で語ることはできません。そこで参考文献をもとにして考察しているわけですが、その参考文献となっているのは当時の文書や浮世絵です。そこで江戸時代の実際のところを知ると、テレビの時代劇を見るたびに違和感を感じて、イライラすることもあり、事実を知らなければよかったという気持ちにもさせられます。
特にイライラさせられるのは、馬の大きさです。時代劇に出てくる馬は、当時の大きさの馬ではなくてサラブレッドです。サラブレッドは明治時代になって持ち込まれたもので、それまでは在来馬で、木曽馬などの小柄の馬種でした。
江戸時代の馬の体高(肩の高さ)は120cmほどで、高いものでも140cmでした。サラブレッドは160〜170cmなので、40〜50cmもの差があります。サラブレッドに乗ってみると、その高さに戸惑います(実際に乗ってみたことがあります)。体高が120cmというとポニーよりも小さなサイズです(ポニーの体高は147cm以下)。
体高が違うと、馬にまつわるシーンも随分と違ってきて、それだけでも時代劇の印象が大きく違ってきます。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)