栄養学の泰斗と呼ばれる先生から教えを受けて、今の知識を得たところがあり、その先生方の教訓話は今でも身に染みています。栄養学の視点は時代とともに変化して、教訓話も受け止め方が変わってきました。
西洋医学の医学者でもあっても、東洋医学の発想で健康づくりを目指す方もいて、現状の飽食に警鐘を鳴らす方々の中には、生活習慣病が少なかった時代の食事に戻すべきであるという考えをすることも少なくありません。
飽食に対して使われる言葉に粗食があり、粗食の時代には生活習慣病の患者は少なかったのは事実です。糖尿病患者は、厚生労働省の国民健康・栄養調査では現状では1億人の成人人口に対して1000万人、糖尿病予備群と呼ばれる血糖値が高い人は1000万人と、合わせて国民の5人に1人が糖尿病か予備群となっています。
75年前の戦後直後には、糖尿病患者は非常に少なく、糖尿病患者が急激に増えたとされる1990年代でも人口1万人あたり200人ほどで、発生確率は2%ほどでした。現在では10%ということなので、5倍にも増えたことになります。
だから、生活習慣病が増える前の状態と同じ食事をしたらよい、という発想が出てくるのもわからないことではなくて、「粗食のすすめ」を主張する医学者が増えるのも仕方がないことだとは思います。医学者の多くはデータ中心主義で、粗食の重要性を訴えるのにも食事内容と病気の変化をデータで示しています。
そのような発表をするときに注意してもらいたいのは、平均寿命のデータです。今でこそ男性は81.67歳、女性は87.74歳になっていますが、日本人の平均寿命が男女ともに50歳を超えたのは昭和22年のことです。そのときには北欧は70歳、アメリカは65歳を超えていました。日本人の平均寿命は、いわゆる先進国の中では最下位でした。そこから栄養摂取が進む中で一気に世界のトップクラスに駆け上がったわけです。
戦後直後か、それ以前の短命であったときの食事を掲げて、生活習慣病が少なかったから、そのときの食事に戻るという主張は正しいことなのか、もう一度考えてほしいのです。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)