大手出版社でゴーストライターをしていたときのこと、教訓的な書籍も多く発行されていたこともあって、それに該当するような逸話を書くと喜ばれていました。ちょっとした書き手のテクニックの一つですが、インタビューの合間に出てきた話が、実は著者(実際は書いていないけれど)の人となりを表す逸話となっていました。
それを一つでも見つけられたら、他の経歴や実績は事実を書き並べても好感をもって受け入れてもらえるということで、インタビューの前後、ちょっとした休み時間の会話は実は大切なネタ探しの時間でした。
ある大手企業のカリスマ経営者へのインタビューの途中で、気になったことを聞いてみました。それは経営者が乗る自動車の運転手が用事を伝えるために応接室に入ってきたことで、通常は運転手の用件は秘書などが伝えるものです。
運転手と経営者の言葉のやり取りも気心が知れた感じだったので、「家族の方ですか」と話を向けてみました。案の定で、長男とのこと。企業の大小に関わらず、長男は要職につけて近くで育てるものというのが一般的です。
近くに置いて、特別な地位に就く人物に帝王学を学ばせるというのは通常のことですが、同じ近くであっても運転手というのは珍しいので、このことを突っ込んで聞いてみました。
会社の中では親の強い部分しか見ることができないが、自動車の中という狭い個室のような空間では、同情した人との会話や携帯電話のやり取りもすべてを聞くことができるので、本当の姿がわかるとのことでした。
経営者には苦しいこと、辛いこともあれば、社員に聞かせられないことを話すこともあり、それを知ってから、会社に入って帝王学を学んでほしいということでした。
実際に、その経営者から出たのは「王道を歩んでほしい」という言葉でしたが、書籍の中では帝王学に変えました。というのは、王道というのは王様が通る楽な道ということで、定番、常道という意味は本来はないからです。
楽な道ではなく、あまり楽とは言えない道(運転手)を経験させることで、よい経営者になってほしいという思いを、書籍の中でも取り上げました。
これは評判がよかったのですが、後日談として長男が会社を辞めて、独立したということを聞きました。周辺の方から聞いたところでは、父親の裏の姿がわかって離れていったとのことで、あまりに特殊な立場につけることには疑問を抱くような結果でした。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)