報道記事というのは、事実としての出来事が起こってから書くものというのが一般的な認識ですが、それでは間に合わないこともあることから、先に仮の原稿を書くことがあります。いわゆる予定稿ですが、あとになって予定稿が出てきて、「筋書き通りの出来事が起こった」などと言われることがあります。しかし、その多くは、事実が起こった瞬間に消されるべき予定稿が残っていたというだけのことです。
これをもって、筋書きに沿ってことを起こすようなことはない、と言うつもりはないのですが。
予定稿を初めて書いたのは、ゴーストライターをしていたときに、通信社の依頼で、“いつかは使われるけれど、いつかはわからない”というものでした。そのときの原稿料について、安い原稿料を先にもらうのか、使われるときに通常の原稿料をもらうのか、という選択を迫られましたが、今とは違って先にもらわなければ苦しくなるような状況ではなかったので、使われてからの原稿料のほうを選びました。
予定稿の対象は著名な方の死亡記事でした。急を要する号外に使われるだけでなく、新聞記事の資料にも使われます。その著名な方の生涯の記録をまとめて、どの部分が選ばれてもデータが足りないということがないようにするためです。原稿は、この手の記事の責任者である副編集長のパソコンの中に収められました。
なぜ書き手としてゴーストライターが選ばれたのかというと、通信社の社員は寝る時間もないほど忙しいので、暇そうに見える人が、たまたま副編集長の知り合いだったということが理由のようです。通信社の資料を使わせてもらっても、完成まで3日もかかりました。当日の、できるだけ早い時間に報道するためには、確かに予定稿を準備しておかなければ間に合わない分量です。
この予定稿が使われたのは提出から4年後のことでした。今のように、いつ、誰が急に亡くなるかわからないときには、予定稿だらけになっているはずです。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)