がんリスクは糖尿病で高まる

高血圧、糖尿病、脂質異常症は全身疾患とも呼ばれています。基準値を超えていても血圧が高い、血糖値が高い、中性脂肪値やLDLコレステロール値が高いという段階では、まだ病気ではなく未病状態であって元の健康な状態に戻せるという考え方もありますが、全身に影響を与えるというところが問題です。
動脈に強い圧力を与える高血圧は血管に徐々に影響を与えていきます。血糖値が高くなりすぎるとブドウ糖が血管の細胞に浸透して細胞の代謝(新陳代謝)を低下させることから血管を脆くしていきます。血管の細胞だけでなく、血糖値が高い期間が長くなるほど全身の細胞にもブドウ糖が浸透していく糖化が進んでいって、全身の老化を進めることにもなります。中性脂肪もLDLコレステロールも血液中に多くなりすぎると動脈硬化を引き起こすことになります。
血管が全身の細胞に栄養と酸素を運び、それを受け取って全身の細胞が活性化することを考えると高血圧、糖尿病、脂質異常症は気がつかないうちに全身の細胞からダメージを与えることになります。全身の細胞への影響ということでは、がんと糖尿病の研究も進んでいて、糖尿病の人と、それ以外の人のがんの発症率を比べると全がんでは約1.2倍の確率であり、部位別にみると肝臓がんと膵臓がんでは約2倍、大腸がんでは約1.5倍、胃がんでは約1.2倍にもなっています。その一方で乳がんや前立腺がんは1を割っていて、糖尿病との関連性は認められていません。
この研究調査は日本糖尿病学会と日本癌学会の合同委員会によって発表されたものですが、糖尿病で発がんの確率が高まる理由としては、糖尿病による酸化ストレス、炎症、インスリン濃度の高さが考えられています。糖尿病はインスリンの分泌量が低下していることの他に、インスリンは分泌されているものの細胞がインスリンを活用できにくくなっているインスリン抵抗性によって起こります。インスリン抵抗性ではインスリンが分泌されているだけでなく、インスリンの効きが悪いことから分泌が続いて濃い状態になっているわけですが、過剰なインスリンが発がんに影響していると考えられています。こういうことを聞くと、インスリン注射を使っている人は心配になるかと思いますが、インスリン注射で発がんの可能性が高くなることは否定されています。
糖尿病とがんの関係性については、アジア人を対象にした大規模コホート研究によって、糖尿病の人はがんによる死亡リスクが26%も高まるという報告がされています。部位別では大腸がんは1.41倍、肝臓がんは2.05倍、胆管がんは1.41倍、胆嚢がんは1.33倍、膵臓がんは1.53倍、乳がんは1.72倍、子宮体は2.73倍、卵巣がんは1.60倍、前立腺がんは1.41倍、腎臓がんは1.84倍、甲状腺がんは1.99倍となっていました。
男女別にみて差があるのかということが気になりますが、日本糖尿病学会と日本癌学会の調査ではがん発症率には差が認められていません。しかし、部位別にみると胃がんでは男性は1.02倍、女性は1.29倍、結腸がんでは男性は1.58倍、女性は0.99倍、直腸がんでは男性は1.12倍、女性は1.44倍、肝臓がんでは男性は2.07倍、女性は1.71倍、膵臓がんでは男性は1.58倍、女性は2.48倍、膀胱がんでは男性は1.32倍、女性は1.63倍と、結腸がん、肝臓がん、膵臓がんで大きな違いが見られています。
こういった結果を見ていると、「糖尿病は死ぬことがない病気だから」などと言っていられないことがわかるかと思います。