コップ1杯の水で便通は改善されるのか

朝に目覚めたときには、コップ1杯の水を飲むと便通がよくなると昔から言われてきました。そのことをテレビ番組で紹介していた便秘外来の専門医が、「大腸の水が増えて便が軟らかくなるから」という説明をしていたのには驚きました。その説明を信じるなら、飲んだ水が、そのまま大腸にまで届くような印象ですが、そんなことはないはずです。
1日に体内に入ってくる水は、飲み物と食べ物に含まれているもので約2000ml、それに対して大小の排泄と発汗で約2000mlなので、バランスが取れていることになります。余分にコップ1杯分の180mlの水を飲めば、これが腸内に残るような感じがするかもしれません。しかし、実際に考えなければならないのは、腸内の水分量です。
腸内の水分は口から入ってきた約2000mlに、消化液(唾液約1500ml、胃液約2000ml、膵液約1500ml、胆汁約500ml、小腸液約1500ml)を合わせると約9000mlとなります。これに対して、小腸から吸収される水分が約7500ml、大腸から吸収される水分が約1400mlなので、差し引き100ml。つまり、約10%ほどが便に混じって排出されることになります。こんなにも多くの水分が腸内にあるのに、180mlほどの水分を増やしたからといって大腸内の水分が増えて便が軟らかくなるようなことはないということがわかります。
コップ1杯分の水を飲むことが便通にプラスに働く、しかも朝に飲むというのが便通に有効であるということは、朝のタイミング、つまりトイレに行く前に飲むということは、この水が大腸の排泄の働きに直接的に関わっているであろうことは容易に想像がつきます。身体の中には胃・結腸反射と呼ばれる仕組みがあって、起きがけに水を飲むと胃が刺激されて、その刺激が蠕動運動を促して結腸に便を送り、便意を感じるというものです。胃に冷たい水が入ると胃・結腸反射が強く起こります。テレビ番組でも冷たい水がよい、と伝えていたのは、このことを指していたはずです。