コレステロールの上限値がなくなって脂質異常症はなくなったのか

「日本人の食事摂取基準」が改定されて、2015年版からコレステロールの上限値がなくなりました。「日本人の食事摂取基準」は5年に1回、現状に合わせた改訂版が出されていて、現在のものは2019年まで有効です。2020年からは新たな改定版が採用されます。コレステロールを多く摂ると動脈硬化のリスクが高まると言われ続けてきましたが、コレステロールの摂取量によって動脈硬化のリスクが高まることが証明されなかったことから上限をなくしたわけです。
そのために、これまでコレステロールが多いからと、食べたくても我慢をしてきた人が、卵(鶏卵)を多く食べるようになりました。卵は重要なたんぱく源で、他の栄養素も豊富で、そもそも美味しくて安くて、“完全栄養食”とも呼ばれているので、卵を選ぼうとするのは当然の感覚です。完全栄養の前に、卵の価格を見てみると、1970年以降は価格が上がったものの、他の物価上昇と比べると下がっています。厳しい時代には卵の消費が増えるのも当然のことです。
完全栄養食と言われるのは、アミノ酸の種類とバランスが優れていて、ビタミンB群やミネラルも豊富です。その多くは黄身に含まれていますが、卵だけを食べていれば大丈夫なのかというと、ビタミンCも食物繊維も不足しています。残念ながら本当の完全栄養食ではないのですが、ビタミンCも食物繊維も他に摂る手段はあるので、優れた栄養食品であるのは間違いがないことです。
本当にコレステロールには上限がないので、たくさん食べても大丈夫なのか、血液中のコレステロールが増えすぎる高LDLコレステロール血症の心配はないのかということは気になります。少なくともコレステロールの上限値がなくなったことで、高LDLコレステロール血症がなくなったわけではないのに、勘違いしている人も少なくありません。
悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLは、食品だけで増えるわけではなくて、血液中のLDLのうち食品に由来するのは20%ほどで、あとは肝臓で合成されています。コレステロールの摂取量がLDLの数値に影響しているわけではないのです。