今回のテーマの「スポーツ大会で元気な要介護者を増やす」は、スポーツ大会に要介護者を参加させて元気にする、という意味ではありません。スポーツ大会を実施することで要介護になっても元気にいてもらうということで、話の対象としているのは、まだ介護を必要としない健康な高齢者です。要介護認定を受けるというと、身体機能が低下して自由に動けなくなること、内臓機能が低下して生活習慣病を発症していること、そして認知機能も低下して日常生活に支障が出ていることをイメージする人が多いようです。この三つが揃っている人もいます。
年齢を重ねるほど多くなっているのも事実です。しかし、介護予防の一次予防として運動を積極的に取り入れることで、年齢を重ねて介護認定を受けるような状態になっても、どれか一つだけ、できれば認知機能は低下させずに年齢相応に足腰の問題か、軽度の生活習慣病(血圧、血糖値、中性脂肪値が少し高い)で済ませたいとは多くの人が願っていることです。
介護する側が楽になるような状態にして、“喜んで介護する”というような状況に持って行くための方法として、よく言われる健康づくりの基本である栄養・運動・休養のうち、最も注目されているのは運動です。厚生労働省の『介護予防マニュアル』によると、運動は運動器の機能の向上にも役立つとされるものの、特に重きが置かれているのは認知機能の向上です。中でもウォーキングは認知機能の項目の中に入れられており、歩くことが脳に与える好影響が語られています。
介護予防のための運動というと、指導する先生がいて、高齢者は参加する生徒というようなイメージが抱かれがちです。しかし、日本老年学会と日本老年医学会が高齢者の年齢を65歳以上から75歳以上に引き上げることを提案しており、65歳から74歳までは前期高齢者ではなく、“准高齢者”として介護される側から、むしろ介護を担う側になることを期待して示しています。一次予防の運動では、ただ身体を動かすだけではなく、指導する側に回って先生になる、さらに運営に参加して役員になる、団体を細分化して支部長になるといったことも考えられます。
日常的に限られた地域の中で活動するだけでなく、活動の輪を広げて、周辺の地域でも活動する、周辺のグループを集めて大会を開く、この活動を都道府県内に広げ、県境を越えて交流活動をする、やがては全国大会を開催するということも視野に置いています。全国大会の開催の権利は、この活動を始めた地域に与えてモチベーションを高めて継続させていくということも考えられます。
この方法なら、一次予防に生徒として参加する人にも、先生として参加する人にもよい結果となり、そして生徒と先生の家族にとってもベネフィット(幸福につながる利益)を与える“三方良し”の状態(近江商人の売り手良し、買い手良し、世間良しではないですが)とすることができます。さらに、一次予防を呼びかけて応援する自治体にとっても、健康な人が増えることによる医療費の削減、要介護になったとしても軽度で済むようになって、介護する方にも介護される方にもベネフィットを与えることにもなります。
ここまで考えると“○方良し”の丸の中に入るのは、五なのか六なのかわからなくなるくらいに幸せな状態を作り出すことも可能となっていきます。