糖尿病患者は外敵と戦う免疫が低いことは以前から言われてきました。その理由として、血液中のブドウ糖が多くなる、いわゆる血糖値が高い状態では血管の中が混雑して、免疫細胞の白血球とリンパ球の流れが悪くなることがあげられています。混雑していると免疫細胞が駆けつけるのが遅くなり、免疫細胞をパトカーにたとえるなら暴漢を抑えるのが遅れ、消防車にたとえるなら消火が遅れるのと同じことで、いくら免疫細胞の能力が高くても、駆けつけられないのでは対処ができないのと同じように考えられているわけです。
免疫細胞も全身の細胞と同じように、エネルギー源のブドウ糖、脂肪酸、アミノ酸を取り込んで、細胞の中でエネルギーを作り出し、そのエネルギーを使って活動しています。いかに多くのエネルギーを作り出すかが免疫の強さに関わるわけで、いかに多くのエネルギー源を取り込むかが重要だということになります。
糖尿病患者は、新型コロナウイルスへの抵抗力が弱くて、感染しやすく、感染した後には重症化しやすいことが知られています。糖尿病は細胞にブドウ糖を取り込む能力が低いことから、血液中のブドウ糖が多くなりすぎることで起こります。血糖値が高いということは、細胞に取り込まれるブドウ糖が少ない証拠であり、それだけ細胞で作られるエネルギーが少なくなっています。そのために血管の細胞の新陳代謝が遅くなり、血管が老化するようになります。糖尿病は単に血糖値が高いために起こる病気ではなく、細い血管の老化が進み、その結果として細い血管が密集している器官(眼の網膜、神経細胞、腎臓など)に悪影響が出る病気です。
免疫細胞の中でも新型コロナウイルスに強い対抗力を示しているのはリンパ球のT細胞です。T細胞はミサイルのように外敵を直接的に攻撃します。T細胞のブドウ糖の取り込みとエネルギー化が免疫反応に、どれくらい影響するのかについて愛媛大学の研究グループが解析を行いました。細胞内でブドウ糖の代謝を動かす解糖系酵素のホスホグリセリン酸ムターゼ1がT細胞にないマウスで解析した結果、ブドウ糖の代謝が著しく低下して、免疫反応が発揮できないことがわかり、正常な免疫反応にはT細胞のブドウ糖の代謝が必要であることを発表しています。T細胞が持続的にブドウ糖の代謝を行うためにはアミノ酸のグルタミンが必要であることを突き止めています。グルタミンは大豆、小麦粉、魚、肉、卵、チーズなどに含まれていますが、それらの食品が免疫強化に役立つのかの研究は、まだ始まったばかりです。