「情けは自分のためならず」は、もちろん「情けは人のためならず」をもじった言葉です。「情けは人のためならず」は聞いたことがあっても、これに続く言葉は、あまり知られていません。知られていないどころか、続きがあると言ったら、疑ってかかる人もいることでしょう。それくらい、「情けは人のためならず」は単独で有名になりすぎています。
この「情けは人のためならず」は新渡戸稲造(旧五千円札の肖像で有名)の詩の一部を抜き出したものです。1年分の格言を集めた大正4年発行『一日一言』(武士道を貫いて生きるための366の格言)の中の4月23日の「恩を施して忘れよ」に採用されています。
それを見てみると、「施せし情けは人の為ならず、おのがこころの慰めと知れ」とあり、まさに「他人に対する恩は忘れても他人から受けた恩を忘れるな」と言っているのです。
ここまで見ると、情けは人のためではない、自分自身のためにかけるものだ、ということを指しているのがわかります。
そのような意味なのに、「情けをかけるのは、その人のためにはならないから、情けなんかかけることはない」という意味だと勘違いされることが多くなっています。
こんなことになるのは、“他人”を意味する言葉なのに“人”という文字を使っているからです。“他人”と書いて「ひと」と読むわけですが、これを「たにん」と読む人がいます。そういう読み方をする人は「ひと」という読み方をして、「ひとごと」という読みを漢字に変換するときには「人事」としてしまいます。こう書かれると「じんじ」と読むのが通常で、まったく意味が通じなくなります。
そこで「情けは自分のためならず」という言葉について説明すると、「情けは人のためならず」という格言の意味をそのまま出したものだということがわかります。