コロナ禍で海外からの観光客がないに等しいほど減少して、それに追い討ちをかけるように県境を越える移動を自粛するように強い要請があり、観光地は壊滅状態ということを経験しました。それは観光を切り口にした地方創生も同様で、これまでの補助金を頼りにして地方創生で施設増設、産業促進、集客などに力を入れてきた地域は、これまでの頑張りが無になってしまうようなところも現れました。
観光業界では、これまでの遠くから客を引っ張ってくるのではなくて、1〜2時間程度の移動距離の周辺から集客をして、旅行熱、観光熱がコロナ禍で冷めないようにするマイクロツーリズムがメディアでも盛んに取り上げられました。その実例として取り上げられていた観光事業者は全国各地にホテルがあり、狭い範囲からの集客であっても、それなりに運営できる体制があるところでした。感染が収束に向かっていく段階では集客を狭い範囲から広めにして、終息が見込める段階で以前と同様に全国から集客しようという戦略です。
狭い範囲からの集客では、もっと地元の隠れた観光地、隠れた食材を掘り起こして、これを新たな切り口にして集客しようという戦略を示していましたが、それは地方創生で、すでに行われてきたことです。違うのは高級感を強めた活動にしたことです。これがメディアで紹介されてから、その手法を見習おうということで、コロナ後を目指した地方創生の会議でも自治体から持ちかけられました。観光事情がよくわかっていない自治体からの話なら、まだわからないでもないのですが、これまで観光を地方創生に持ちかけてきた広告代理店まで同じ手法を提案してきたのには驚きました。コロナ禍は、ここまで狂わせてしまったのかという感覚です。
こういった自治体の提案でも、広告代理店の提案でも、抜けているのは地元の日本酒の活用です。おいしい日本酒を求めて全国を巡っている人は多く、狭い地域での観光なら、なおさら地元の味に大きな影響を与えている日本酒は大事なはずですが、その話は出てきません。地域の日本酒は、遠くに行かなくても手に入るもので、この日本酒を用いて、「お酒を飲んで健康になれる地方創生」ということがあってもよいし、「旅は道連れ要はお酒」という感覚での蔵元巡りのマイクロツーリズムがあってもよいはずです。しかし、コロナ禍で飲酒が悪のような扱いをされた影響を引きずっていて、いまだに日本酒を切り口にした地方創生は登場していません。