タイトルの「知らぬがほっとけ」の元の諺(ことわざ)は、「知らぬが仏」です。これは、知れば腹が立ったり、悩んだりするようなことでも知らなければ平静な心でいられることのたとえです。もう一つの意味として、本人だけが知らずに平然としていることを嘲って(あざけって)言う言葉としても知られています。
前回に引き続いて、業務用食器洗浄器の話をさせてもらいますが、食器が充分に洗えていないために危険な状態になっているということは、料理を食べている客だけでなくて、提供する側の店の人も知らないということがあります。本来なら食器洗浄器を使っている店の人に、正しい使い方を教えているのか、教えたとしても危険を知らないために違った使い方をしているのを見逃すような仕組みになっているのか、というのが注意喚起したいことです。
業務用食器洗浄器は小型のドアタイプ(回転式)でもコンベアタイプでも、ウォーターナイフと呼ばれる洗浄水が食器に正確に当たって汚れを落とせるように、食器の設置方法が定められています。食器洗浄器は英語ではディッシュウォッシャーといいます。ディッシュは食器というよりも皿のことで、洋食の皿を洗うために開発されました。皿の表側を上に向けて斜めに設置するとウォーターナイフで汚れが落ちやすいように角度調整されています。
皿以外の深さがある器(茶碗、丼、汁椀、湯のみなど)は上向きにすると水が溜まって、ウォーターナイフ効果が得られなくなるので、下向きに設置します。上からの水流よりも下からの水流のほうが重力の関係で弱くなるので、水流の調整が必要になります。グラスや茶碗蒸し用の食器のように深いものだと奥まで完全に洗うことができなくなるので、先に洗ってから設置することになります。食器の隅々までウォーターナイフが当たるように、食器は離して置くことが必要で、少なくとも重ねるようなことがあってはいけないのですが、そんな洗い方をしている店も見かけます。
洗浄時間を短くして効率を高めようとしている店もあるのですが、洗浄は洗浄剤の濃度、温度、時間によって結果が異なります。指定された方法で洗浄しないと汚れが残る、洗浄剤が残るということになりかねません。
正しい洗浄の温度は、予備洗浄が40℃以上、洗浄が60℃以上、循環すすぎが65℃以上、仕上げすすぎが80℃以上と業務用食器洗浄機基準(日本厨房工業会)によって定められています。この温度で正しく洗うことができるのですが、この温度で一定の時間をかけることで食器の表面温度を72℃以上にします。これによって除菌をすることができます。
それなのに熱い食器に触れたくないということで、洗浄温度を勝手に下げたり、食器洗浄器の周りが暑いからといって冷房を強くしたり、扇風機を当てているところもあります。これでは食器の表面温度が下がって除菌ができなくなってしまいます。そんな食器で出された料理を食べたくないと感じるのは、私たちだけではないはずです。