コロナ禍で社会システムが変わると言われても、なかなか感覚的にわからないという人も少なくありません。新型コロナウイルス感染症が医療システムを崩壊させる危機が叫ばれている(ずっと叫ばれ続けている)わけですが、医療システムを大転換させるほどの状態が起こっているという認識をしています。日本の医療システムは、世界と比べて優秀であり、これは国民皆保険制度のおかげだと考えられています。これが今までの常識的な考えです。しかし、身近なアメリカと比較しても、日本の医療制度は大きく異なっています。
日本の医療制度は、簡単に表現すると“出来高払い”です。入院日数が長いほど、医療行為が多いほど、医薬品が多いほど多くの支払いをする制度です。できれば“定額の食べ放題”方式であればリーズナブルであるわけですが、アメリカの医療は“定額払い”のシステムとなっています。診断と治療のマニュアルがあって、州によって違いはあるものの、マニュアルに従った診断の結果、治療方針が決まると定額で支払う金額も決まります。同じ病気で、同じ治療なら支払う金額も同じというのが大原則です。
そのため、治療方針と金額が納得できなければ、他の病院に診断の資料(検査結果、診療方針など)を持って受診します。これがセカンドオピニオンです。セカンドオピニオンは日本でも広まっているといっても、自分のお金で受けた検査結果を持って他の病院の判断を聞いて回るということではなくて、行った先の病院で同じ検査を受けることになります。なぜ、日本で、そんな無駄づかいとも思われる制度ができたのか、今も変わらないのかということについては別の機会で解説させてもらいます。
アメリカでは無駄な医療費をかけないためのシスムテムですが、どんなにサービスをしても病院の収入は変わりません。そのために早く安く患者を治して退院させるのがよい医師で、給料も高くなります。それに対して日本の出来高払い方式では、多くの検査をして、長く入院させて、治療にも投薬にも金をかけたほうが収益が得られるシステムです。アメリカの人口は日本の約1.8倍(アメリカ:約2億2900万人、日本:約1億2300万人)ですが、病院のベッド数は人口比率では日本は世界一ということがコロナ関連で紹介されていました。人口1000人あたりのベッド数は日本は13.0床、アメリカは2.9床と4.5倍ほども多くなっています。
こんなにも少ないベッド数で済んでいるのは入院の平均日数が、日本が33.5日であるのに対して、アメリカが7.8日で、いかに早く退院させているかがわかります。一概に入院日数が短ければよいというわけではなく、集中して医療行為をすることもあってアメリカでは医療単価が非常に高くなっています。コロナ禍で医療崩壊をして制度を大転換させなければならなくなったら、定額といっても高額の医療費が必要になるという世界も待ち構えているということです。