京都の言い回し5 おいしそうな食べ方の意味合い

同じことを話していても、同じ意味で話しているとは限らないというのは、どこの地域にもあることですが、その極端な地域とされるのが京都だというのは、ほぼ定説になっています。

言葉の通常の意味で捉えていると、失敗をしかねないということで、京都の人との付き合いはビジネスを含めて注意が必要だというアドバイスをする人は多く、これをネタにした書籍や雑誌記事、ネット情報も多数あります。

京都で食事をしていて、「おいしそうに食べはりますな」と言われたとき、どう考えたらよいのかということですが、額面どおりに“おいしいものを、おいしく食べている”、そのことがわかってもらえて、喜ばれていると思ったら大間違いということもあります。

「おいしそうに食べはりますな」は、食べ方が雑、もっと上品に食べてほしい、という意味合いで、中には「音をたてて食べるな!」というキツイ物言いを、やわらかな言葉づかいで言っているということもあるのです。

京都は観光都市であって、地方からの客で成り立っている店も多くあります。また、歴史がある街に並ぶ商店は地元の人の経営が多いとしても、そこで働く人は他の地域から来ている人ということも少なくありません。

「おいしそうに食べている」という指摘が、すべて裏の意味合いで言っているということはなくて、それは他の地域から来ている人に対しての、京都特有とされる“いけず”の表現ではないはずです。

しかし、「郷に入っては郷に従え」ではないのですが、一定の雰囲気の中で仕事をしていると、だんだんと“郷の人”の雰囲気を身につけていってしまうことも往々にしてあります。

京都の周辺に住む人は、京都人との交流を若い時分からしてきているので、京都で仕事をしているだけでも“郷に従った”雰囲気を醸し出しがちです。こういったこともあって、京都では本当においしい料理でも「おいしそうに食べている」と思われないように、気をつかってしまいます。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕