人事は他人事なのか

ビジネスに関する文章を読んでいるときのこと、会社の人事のことを説明しているものと思っていたら、自分のことではないというような内容になり、「人事は自分のことではないか」と思いながら、さらに読み進めていると文字の間違いであることに気づきました。書かれていたのは“人事”のことではなくて“他人事”でした。パソコンの文章ソフトで「ひとごと」と打つと、普通は“他人事”と変換されますが、“人事”と変換されることもあります。
そこで「たにんごと」と打つと“他人事”と出てきます。この方法だと打ち間違いが起こらないでよいのですが、世の中には“他人事”と書かれていると「たにんごと」と読む人がいます。私たちのようにわざと「たにんごと」と打ち込んで“他人事”と変換させているのとは違って、信じて疑わない勢いで「他人事=たにんごと」と読んでいます。
NHK新用字用語辞典は読み間違いが起こらないようにするために使われていて、普通とは違った漢字表記をすることがあります。それで「ひとごと」を引いてみると“ひと事”と掲載されています。これなら他人事(たにんごと)とも人事(じんじ)とも読まれるようなことはありません。これはメディアに共通していることなのかというと、そうではありません。主な新聞社や通信社も“他人事”とは書かないのが原則で、「ひとごと」や「人ごと」と表記されています。
こんな話を日本メディカルダイエット支援機構の理事長と話をしていたときに、以前に理事を務めていた作家団体の長老から「戦前の辞書には“人事”と書かれていた」と聞いたことがある、と言っていました。この話を通信社の知人に確認してもらったところ、それは事実でした。なぜ“人事”が“他人事”になったのかということを、お節介にも調べてくれました。それによると、人事と書いたのでは「じんじ」と区別できなくなるので、“他人事”という書き方が登場して、徐々に広まってきたということでした。
ということは、「ひとごと」と打ち込むと“人事”と変換されるのは不思議なことではないということで、少なくとも「たにんごと」というのは間違いだということです。