漢方薬というと中国で長い歴史に裏付けられた医学で使われる自然由来の医薬品という印象があるかもしれませんが、その印象どおりのものは“中医薬”といいます。
中医薬が日本に伝えられたのは遣隋使、遣唐使として帰国した学僧などによるもので、中医学で使われる医薬品が、文献とともに、そのまま持ち込まれました。室町時代から江戸時代には、中医学の新たな思想や処方が伝わり、そのまま受け入れるのではなくて、独自の解釈と処方が生まれ、これが漢方となりました。
漢方薬は中国と同じ素材を使っていたとしても、中国そのままではなくて、日本式のアレンジを施したものです。現在の漢方薬は、素材は中国や各国のものであっても、日本で作られたものとなっています。
そのようになった背景は、中医学の基本が関係しています。中医学では証(しょう)を重視しています。証は本人が感じている自覚症状と専門家が診る他覚的所見から得られた情報を総合したものを指していて、体質、体力、抵抗力などの個人差を表す中医学独特の発想です。体質的に中国人と日本人は違っているはずで、だから日本人に合わせた医学として作り出されたのが漢方となります。
証は数多くの項目がある中で、基本となるのは体力(身体が強いか弱いか)、温度(体温が高いか低いか)、水分(体内の水分が多いか少ないか)で、この3種類の項目でも中庸(過不足がなく調和がとれていること)を加えると全部で27パターンになります。もう1種類が加わると81パターンになってしまいます。
基本の27パターンのうち、どの体質なのかを知って、体質に合わせた医薬品を使います。中医学では中医薬は人によっては身体をよくする一方で、逆に悪くすることにもなるという発想をしています。最もよいのは中庸であって、身体が温まりやすい人が温めるものを使うと状態を悪くします。冷やすものを使って中庸に近づけるのが重要で、誤った処方は病気を悪化させることになるので、治療の第一は体質を知ることになります。
その考えからすると、体質に関係なしに、漢方薬を西洋薬と同じように処方するのはおかしいことになるはずですが、漢方薬を使っている日本の西洋医学の医療機関で体質の診断をされたというのは聞いたことがありません。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)