日本糖尿病学会の「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」の中から運動療法について前回に続いて紹介します。
◎運動と血糖値の変化
健常者では中等度の強度の運動を行った場合、血液中のブドウ糖は骨格筋に取り込まれて利用されるが、インスリンの低下とグルカゴンの上昇により肝臓での糖産生が増加することで血糖値はほとんど変化しない。
2型糖尿病患者が同様の運動を行った場合、インスリンの低下が起こりにくいため肝臓での糖産生は増加しにくいことに加え骨格筋での糖利用は増加するので、運動中の血糖値は低下する。この血糖低下作用は、インスリンやスルホニル尿素薬で治療中の患者では増大し低血糖を起こすリスクが高まる。また、運動終了後においてもグリコーゲン合成やインスリン感受性の亢進により血糖値は低下する。そのため、インスリンや経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)で治療中の患者では、運動中のみならず運動当日〜翌日にも低血糖を生じるおそれがある。したがって、速効型あるいは超速効型インスリンにて治療している症例では運動前のインスリン投与量を、中間型あるいは混合型インスリンにて治療している場合は朝食前のインスリン投与量を運動量に合わせて減量するなどの調節を要する。インスリン投与量の調節は運動強度や運動の持続時間により異なるが、投与インスリン量を1/2〜2/3に減量するのが一般的である。夕方以降に運動を行う場合には夜間の低血糖のリスクが高まることに注意する。
一方、インスリン欠乏状態で全身性の強い運動を行った場合、肝臓での糖産生の増加は正常に生じるが、糖利用が障害されるために運動中または運動後にかえって血糖値は上昇し、ケトーシスを生じる可能性がある。1型糖尿病患者でケトーシスを起こしやすい症例などでは運動に際してインスリン投与量をあまり減らさず、補食で調整するとよい場合がある。
インスリン療法を行っている患者では、運動誘発性の低血糖を起こすリスクがあるため、インスリン投与法、運動の時間帯、持続時間、運動量の調整が必要である。運動療法を行う時間帯については、強化インスリン療法中の1型糖尿病患者においては早朝空腹時に行うのが最も低血糖が少ないとの報告があるが、朝食後に行うと食後の血糖コントロールが改善するとの報告もある。また、1型糖尿病患者において、持続的な中等度の運動中に間欠的な高強度の運動をはさむことで血糖値の低下が抑制されたとの報告がされた。インスリン投与量の調整の標準化は難しく、患者自身の経験に基づいて調整する必要がある。そのため、運動前、運動中、運動後の血糖自己測定を行い、運動による血糖値の変化を把握し、食物摂取やインスリン療法の調整または運動療法の変更などで患者自身が対応しなければならず、運動が血糖値に与える影響を理解する必要がある。