高齢者は運動をしても筋肉がつきにくいと言われてきました。しかし、ウォーキングに関して、さまざまな研究が進められる中で、歩くだけでも高齢者に限っては筋肉が増えやすいことが明らかになってきました。歩くだけといっても、筋肉の中に酸素を多く取り込むことができる速歩でないと効果が得にくいのですが、若い人の場合には、速歩をしても筋肉が増えるようなことはあまり期待ができません。歩くだけで筋肉が増えるのは、高齢者の特権のようなものです。
筋肉が増えるときには、運動によって筋繊維(筋肉細胞)が傷ついて、これを修復させるためのサテライト(衛星)細胞が筋繊維の周囲に作られ、これが筋繊維に取り込まれることによって筋繊維が太くなっていきます。全身の筋繊維は生まれたときから数は変わらず、高齢者になったからといって筋繊維が減っていくわけではありません。筋肉を使わない、刺激をしないことによって筋繊維が細くなっているだけです。そのため、筋肉を増やす運動をすれば、高齢者でも筋肉は太く、強くすることができます。
といっても、筋繊維が傷つくほどの運動を高齢者がするのは大変なことです。ところが、速歩をすると、高齢者はエネルギー不足になって、これを補うために血液中のブドウ糖を筋繊維に取り込むためにAMPキナーゼという酵素が作られます。この酵素によって筋繊維の中のGLUT(グルット)4というグルコーストランスポーターのタンパク質がブドウ糖を取り込むようになります。
AMPキナーゼが多く作られると、サテライト細胞が多く作られるようになります。若い人がAMPキナーゼを多く作ろうとしたら、相当に負荷がかかる運動をしなければならないのですが、高齢者は体力が低下しているために、速歩でもAMPキナーゼが作られるようになります。だから、高齢者は歩くだけでも筋肉を増やすことができるのです。