健康情報109 アフターコロナでも残る日本人のマスクの理由

人間の行動、心理は置かれている状況の強い影響を受けていますが、平時に意識されることはありません。コロナ禍にアフターコロナ期を含む長期にわたるパネル調査データを用いて分析して、日本人のマスク着用に、「政府による推奨政策」と「周囲の着用状況」が与える影響が大阪大学大学院人間科学研究科と大阪大学感染症総合教育研究拠点の研究グループによって検証されました。

研究グループは日本在住者を対象として2022年10月から実施しているパネル調査データから、マスク着用が個人の判断となり、さらには新型コロナウイルスが5類に引き下げられる(2023年5月)というアフターコロナを決定づける時期を含むデータを取り出して分析することで、社会状況の変化が行動に及ぼす効果を検証することが可能となりました。

研究グループは、政治経済などの社会状況の変化と、それに伴う人の心の変化を探るために、2022年10月以来、2000名の日本在住者を対象にしたWeb調査を1か月に1回実施してきました。

そして、この調査に含まれる質問項目のうち、回答者自身のマスク着用率を問う項目(あなたは現在、外出時にマスクを着用していますか)に注目しました。

マスク着用に「政府が推奨している」という命令的規範が及ぼす影響を知るために、システム正当化傾向との関連が検討されました。もし命令的規範が着用を促していたなら、マスク着用を政府が推奨していた当時は、システムを正当化する傾向が強いほどマスクを着用しようとすると考えられます。

しかし、そうした傾向は認められませんでした。これはコロナ禍におけるマスク着用は、少なくとも、その終期においては、命令に従おうとする心理によって説明できるものではなかったと考えられます。

マスク着用に「周囲が着用している」という記述的規範が及ぼす影響を知るために、社会全体のマスク着用率を推定させる項目(現在の日本の社会全体のマスク着用率はどの程度だと思いますか)への回答との関連も分析されました。

その結果、記述的規範から個人の行動への影響は、統計的に意味のあるものではあったものの、逆の(回答者自身のマスク着用率が社会全体のマスク着用率の推定に及ぼす)影響と比較すると相対的には小さいものでした。これは、いわゆる「同調圧力」は声高に言われたほどのものではなかったことを示しています。

人間の行動、それを司っている心理は、置かれている状況の強い影響を受けているものの、平時は状況の力が意識されることはあまりなく、コロナ・パンデミックのように激烈な状況の変化があると、多くの人が否が応でも、それを自覚させられたようです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕