これまでの研究で、女性医師による診療は、特に女性患者においてコミュニケーションの改善や、医師患者関係の良好化、医療アドバイスの遵守率向上、ひいては患者アウトカムの改善などの良い影響があることが指摘されています。
一方、女性患者は男性患者に比べて、集中治療を受けにくかったり、診断が遅れがちだったり、痛みなどの症状を過小評価される傾向があり、患者の性別による受ける医療の内容に差がみられるということが指摘されてきました。これらの知見は、医師の性別が、男女の患者が受ける医療の違いに影響している可能性を示唆しています。
しかし、医師の性別が患者の健康アウトカムに与える影響が、患者の性別によって、どのように異なるかについては、わかっていませんでした。
東京大学大学院医学系研究科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の共同研究チームは、アメリカの65歳以上の高齢者の内科入院データを用いて、担当医師の性別が患者の死亡率や再入院率に与える影響が男性患者と女性患者で、どのように異なるかを調べました。
アメリカのメディケア(65歳位以上の高齢者のほぼすべてが加入する医療保険)の診療報酬データを用いて、女性医師と男性医師が治療した緊急入院患者のアウトカム(30日患者死亡率、30日再入院率)が比較されました。
女性医師に治療された患者のほうが、男性医師に治療された患者より死亡率や再入院率が低い傾向にある一方で、女性医師の治療によるメリットは女性患者のほうが男性患者よりも大きいことを明らかにしました。
因果関係に迫ることのできる自然実験を用いたアメリカの高齢者77万人以上の入院データの分析の結果です。アメリカでも日本と同様に、女性医師はいまだ少数派で、女性患者が女性医師に診てもらう機会は不足しています。
2016年から2019年の間に4万2114人の医師が治療した77万6927人の患者について、医師と患者の性別の4つの組み合わせ(女性医師に治療された女性患者、男性医師に治療された女性患者、女性医師に治療された男性患者、男性医師に治療された男性患者)ごとのアウトカムが分析されました。
その結果、入院後30日以内の調整死亡率は、女性患者では女性医師に治療された場合は8.15%、男性医師に治療された場合は8.38%と、女性医師のほうが0.24ポイント統計学的に優位に低いことがわかりました。
一方で、男性患者では女性患者に治療された場合には10.23%、男性医師に治療された場合は10.15%と、女性医師のほうが死亡率が低い傾向はあるものの、統計学的に有意な差はありませんでした。再入院率についても同様の傾向が認められました。
これらの結果から、女性医師の治療による患者への利益は女性患者において大きいことがわかりました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕