健康情報119 言葉がヒトの匂いの脳内情報処理に与える影響

人間は言語を介して世界を認識することができます、一方で、世界を言語化することで思い込みが生じて認識が変化することもあり、特に匂いの感じ方は匂いを表す言葉(言葉ラベル)の李恭を強く受けることが知られています。

匂いの感じ方は、鼻腔に取り込まれた匂いの物質の種類だけで決まりわけではなく、言葉ラベルなどにより、その匂いを何の匂いと思って嗅ぐかが変わると、変わることが知られています。一方で、言葉ラベルが脳内での匂いの情報処理に、どのような影響を与えるかについては十分に解明されていませんでした。

東京大学大学院農学生命科学研究科、大阪大学大学院生命機能研究科、情報通信研究機構未来ICT研究所脳情報通信融合研究センターの研究グループは、超高磁場のfMRIを用いた検証を行い、同じ匂いを嗅いでも、異なる言葉ラベルを与えられると、匂いの感じ方、一次嗅覚野の脳活動が変化することを明らかにしました。

主観評定を検証したところ、同じ匂いに対して同じ言葉がラベルされた場合に比べて、2つの異なる言葉がラベルされた場合のほうが、匂いをより違って感じることが示されました。このことから、同じ匂いであっても異なる言葉ラベルが与えられると匂いの感じ方が変化することが示されました。

次に一次嗅覚野の脳活動に対して脳情報でコーディング解析を行ったところ、同じ匂いに対して2つの異なる言葉がラベルされた場合に、その活動の空間的なパターンが異なることが示された。このことから、同じ匂いであっても異なる言葉ラベルが与えられると一次嗅覚野が変化することが示されました。

最後に、一次嗅覚野の活動が言葉によって変化するメカニズムを探るために、一次嗅覚野と嗅覚野以外の脳領域について機能的結合解析したところ、一次嗅覚野と言葉や記憶の処理に関わる脳領域が連携して機能していることが示唆されました。

匂いの脳内情報伝達経路の中でも上流に位置する一次嗅覚野に言葉ラベルの影響があったことは、ヒトにおける匂いの脳内情報処理機構を包括的に理解するための足がかりとなることが期待されます。また、産業応用の面においては、脳活動から匂いの微細な違いを読み出す技術が、香料のもたらす印象を予測する技術へとつながることが期待されます。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕