アルコールは人間の機能に多様な影響を与えます。これまでの飲酒に関する研究では、高用量アルコール摂取が注意力の減少や反応時間の延長などとともに、関連する脳活動に変化をもたらすことが示されてきました。
また、飲酒運転の厳罰化で事故数は激減する一方で、飲酒した翌朝に重大な事故を起こすことがあります。そこで低用量のアルコール摂取で、ヒトの行動と脳機能に影響を与えるとの仮説のもとに、札幌医科大学医学部神経科学講座、大阪大学大学院医学系研究科法医学教室の研究グループは、健康な成人を対象に、低用量アルコール摂取による体内低濃度(呼気アルコール濃度0.15mg/ℓ)で行動と脳活動に及ぼす影響を調査しました。
ストップ・シグナル課題という、運動と突然に止めなければならない課題を行っている最中の脳活動について、機能的MRIと筋電図の同時測定を行いました。その結果、体内低濃度であっても、反応時間の延長や筋電図の変化とともに、右下前頭皮質と呼ばれる運動抑制に関与する脳部位の活動が増加することを発見しました。
道路交通法での酒気帯び運転は、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上と定められています。これらから、飲酒運転になるかならないか程度の呼気アルコール濃度でも抑制制御、たとえばブレーキを踏むことやハンドルを切る等の回避行動を行うときの脳活動が変化することを示しました。
体内アルコール低濃度時においても、運動抑制に関する反応時間の延長と筋電図・脳活動の変化を引き起こしました。このことは、飲酒運転になるかならないか程度の呼気アルコールでも、衝動的な行動を防ぐ認知プロセス、つまり衝突や轢過の回避に影響を与えることを示しました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕