肥満は高血圧、脂質異常症、糖尿病などの発症と進展を促進するだけでなく、脳梗塞、心筋梗塞、腎臓病、がんなどの発症にも関わっています。肥満になると食事量が多くなくても消費エネルギー量が低下するために、肥満から脱却するのは困難なことです。
その原因として、生体のエネルギーのバランス調整を行う脳領域の視床下部での神経機能障害が知られています。特に視床下部のPOMCニューロンは、全身のエネルギー状態を感知して摂食量や熱産生による消費エネルギー量を制御する重要な神経細胞であり、肥満の病態では、制御機能が障害されて、より太りやすくなります。
肥満に伴う視床下部の神経系の障害メカニズムの一つとして慢性炎症の進展が知られていたものの、慢性炎症が引き起こされるメカニズムについては十分に解明されていませんでした。
富山大学学術研究部薬学・和漢系の研究グループは、視床下部での神経細胞の機能低下が始まるメカニズムとして、ペリサイト(周皮細胞)の重要性を明らかにしました。
ペリサイトは血管を取り巻くように存在する細胞で、血管の安定化や血流量などの血管の機能を調整して、安定性を維持する働きをしています。
血管内皮細胞から産生される増殖因子PDGFは。血管内皮細胞から分泌されて、ペリサイトの細胞表面のPDGF受容体に作用することでペリサイトの機能維持に重要な作用を示す血小板由来増殖因子となっています。
マウスに脂肪の含有量が高い高脂肪食を与えると肥満となりますが、このときにペリサイトは早期から反応して、炎症伝達因子(CXCL5)が放出されます。この因子は脳の免疫細胞(ミクログリア)の炎症活性を高めて、視床下部に慢性炎症を誘導させます。その結果、神経細胞の機能が障害されて、エネルギー消費に必要な熱産生機能の低下を導くことで体重が増加します。
研究では、ペリサイトの機能に重要な増殖因子PDGFの受容体を欠損するマウスに高脂肪食を与えましたが、炎症伝達因子が増えず、視床下部の炎症が抑制され、神経細胞の活性と消費エネルギー量が維持され、その結果として体重増加も抑制されたことが報告されています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕