冷え症は器質的な異常がないにも関わらず、全身または身体の一部(腰や手足など)を冷たく感じて、冷えによって日常生活に苦痛を感じて、痛みなどを伴うことが知られている状態です。女性に多く、医療機関の漢方外来を受診する患者の中でも最も多い症状となっています。
冷えや冷え症が発症する生理学的メカニズムとしては、自律神経機能失調による血管運動神経障害、エストロゲンの低下による女性ホルモンのバランス異常、筋肉量の減少による体温調整機能の低下など、さまざまな要因が考えられています。
その一方で、冷えを有する女性の母親の60%以上が冷えを有することが報告されています。また、思春期以降の外来患者の冷えと冷え症の頻度が年齢によって変動が認められないことから、冷えと冷え症が遺伝的背景に起因することが示唆されていました。
しかし、冷えに関連する網羅的な遺伝子解析研究の報告はなく、冷えに対する遺伝的要因の影響に関しては定かにはされていませんでした。
この研究に取り組んだのは慶應義塾大学医学部漢方医学センター、ツムラの研究チームで、日本人の成人女性(20歳以上60歳未満)約1200人を対象に、冷えの自覚症状に関する初の網羅的なゲノム対策を実施して、冷え症と関連するゲノム領域を見つけたことを発表しました。
研究の結果、KCNK2遺伝子近傍のrs1869201一塩基多型と、TRPM2遺伝子上のrs4818919遺伝子多型などが冷え症のリスクと関連していることが示唆されました。これらの一塩基多型は、それぞれ冷え症に関連するタンパク質の発現量を変化させることで冷え症のリスクを高めると考えられています。
これらの遺伝子に由来するタンパク質は、温度だけでなく、痛みの感度にも関連しているため、冷え症の患者が、さまざまな疼痛疾患を合併していることを説明できる可能性があります。
さらに一部の生姜が、これらのタンパク質の作用に影響することも報告されていて、漢方薬が冷え症に有効であるメカニズムの解明にも重要な意義を持っていると考えられています。
研究に参加して解析対象となった1111人のうち512人は冷えを自覚していなくて、599人が冷えを自覚していました。冷えを自覚している群は体重が低く、運動習慣がない、閉経前、のぼせを自覚しているほか、漢方薬を使用している割合が高いことが明らかにされています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕