健康情報52 抗コレステロール薬の長期服用とがん罹患リスクとの関連

国立がん研究センターのがん対策研究所・予防関連プロジェクトは、生活習慣病と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにして、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。

平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に10保健所(岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、茨城県水戸、新潟県長岡、大阪府吹田、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県中部、沖縄県宮古)管内に在住の40〜69歳の男女約7万6000人を平成25年(2013年)まで追跡した調査結果に基づいて、抗コレステロール薬の長期服用とがん罹患リスクとの関連を調べた結果を発表しました。

さまざまな薬剤において、期待される効果とは別に、がんの発生を予防あるいは促進する可能性が示唆されており、抗コレステロール薬についても、がんとの関連が議論されています。

抗コレステロール薬として最も一般的に使われているスタチンは、腫瘍の増殖阻害や特定のがん細胞におけるアポトーシスの誘導の効果があるという報告がありますが、これまでに得られている研究結果では関連性が一致していませんでした。

調査開始時、5年後調査、10年後調査におけるアンケートの回答から抗コレステロール薬の服用状況をもとに、がん既往歴のない人を、内服なし、5年未満服用、5年以上服用の3グループに分け、2013年末までに追跡調査を行いました。

そして、服用なしと比べた他のグループにおける、その後のがん罹患との関連を、全部位、食道、胃、大腸、肝臓、胆道、脾臓、肺、乳腺、子宮、前立腺、腎臓のそれぞれのがんについて調べました。

解析では、年齢、性別、地域、喫煙状況、飲酒状況、体格(BMI)コーヒー摂取、身体活動、職業、がん家族歴・糖尿病・高血圧の既往の有無など、がんと関連する要因を統計学的に調整し、これらの影響はできるだけ取り除かれました。

なお、肝がんについての解析では慢性肝炎または肝硬変の既往を、乳がんと子宮がんの解析では閉経状況、ホルモン剤の使用の有無についても統計学的に調整されました。

平均13.1年間の追跡期間中に、8775人(男性5387人、女性3388人)が、何らかのがんと診断されました。全がんとその他の部位のがんについては、がん罹患のリスクと抗コレステロール薬の長期使用との間に統計学的有意に関連は観察されませんでした。

がん部位別の解析の結果、抗コレステロール薬を5年以上服用したグループで、肝がんの罹患リスクが統計学的有意に低下しており、また膵がんの罹患リスクが統計学的有意に上昇していました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕