子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、2010年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した大規模かつ長期にわたるコホート調査です。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医療的支援のメディカルサポートセンターを、日本各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等の地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置して、環境省と各関係機関が協働して実施されています。
臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取して、保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
国立環境研究所エコチル調査コアセンターは、エコチル調査に参加する4577名の母親を対象に、妊娠12週から16週までに採取された尿中のフェノール類濃度を分析して、ばく露源を検討しました。
フェノール類は、食品や飲料の容器、子ども用の玩具といった多くのプラスチック製品、染料や洗剤、消毒剤、殺虫剤など多様な製品の原料として用いられています。
最近の研究では、子どもや妊婦の尿や血液などから、ビスフェノール類が検出されたことが報告されていて、妊娠初期のばく露により、早産や死産といった出産時のリスクが高まる可能性が指摘されています。
しかし、フェノール類の妊婦のばく露やばく露源についての情報は限られています。そこで妊婦のフェノール類ばく露を評価し、ばく露源が予測されました。
採取された尿中の9種類のフェノール類の濃度が分析されました。このうちBPAばく露については推定1日摂取量を計算し、ドイツ連邦リスク評価研究所の設定した耐容1日摂取量と比較されました。そして、参加者が自ら回答する質問票から社会人口統計学的特性、生活環境、食事摂取量などのデータからフェノール類のばく露源が予測されました。
9種類のフェノール類のうち、PNP(68.2%)とBPA(71.5%)の2種類が60%以上の母親の尿から検出されました。PNP濃度は国内外の先行研究で報告された濃度と同程度であり、BPA濃度は国内外の先行研究で報告された濃度よりも低い値でした。
BPAの平均推定1日摂取量は耐容1日摂取量の10分の1から100分の1程度となり、BPAのばく露が健康に害を及ぼした可能性は低いと考えられました。
質問票の回答を用いてフェノール類のばく露源が探索されましたが、今回の解析からはばく露源は特定はされませんでした。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕