健康情報96 睡眠時間やその変化と要介護認知症との関連

国立がん研究センター・がん対策研究所(予防関連プロジェクト)は、生活習慣病と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関連を明らかにして、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。

平成2年(1990年)と平成5年から6年(1993年から1994年)に、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、高知県中央東の5保健所管内の住民のうち、調査開始時にアンケートに回答した40〜71歳の約4万2000人の男女を平成28年(2016年)まで追跡した調査結果に基づいて、睡眠時間やその変化と、要介護認定情報から把握した認知症との関連を調べた結果を発表しています。

睡眠時間やその変化と認知症発症との関連については、これまでにも多くの報告がされています。しかし、多くの研究は高齢者(65歳以上)を対象としかつ追跡期間が短いことから、認知症や認知機能低下の症状の一つとして睡眠時間が変化している可能性があるために、睡眠時間やその変化が原因なのか、結果なのかの区別が困難でした。

大多数が正常な認知機能を保っていると考えられる中年期(40歳から65歳)の集団を研究対象としたり、長期間追跡したりと、原因と結果を区別しようとする研究も散見されますが、その数は少なく、結果も一定していませんでした。そこで、主に中年期の男女を対象として開始した多目的コホート研究において、睡眠時間やその変化と、その後の認知症リスクとの関連が調べられました。

この研究では、調査開始時点(ベースライン)に実施したアンケート調査における、普段の睡眠時間(ベースライン睡眠時間)を尋ねる質問への回答が用いられました。回答に従って、対象者を「3〜5時間」「6時間」「7時間」「8時間」「9時間」「10〜12時間」のグループに分類しました。

また、調査開始から5年後時点の回答も用いて、睡眠時間の変化による分類も行われました。

2つの時点の睡眠時間から、「2時間以上減少」「1時間減少」「変化なし」「1時間増加」「2時間以上増加」のグループに分解しました。

それぞれ、ベースライン睡眠時間の解析では「7時間」、睡眠時間の変化の解析では「変化なし」のグループを基準として、その他のグループにおける、その後の認知症リスクを算出しました。

解析時には、年齢、性別、地域、体格、喫煙習慣、飲酒量、緑茶摂取量、コーヒー摂取量、運動習慣、居住形態(独居か否か)、心理的ストレス、糖尿病の有無、高血圧の有無について統計学的に調整し、結果に与える影響ができるだけ取り除かれました。

2007年から2016年までに、4621人が認知症と診断されていることが確認されました。解析の結果、睡眠時間が1日7時間の人に比べて、9時間の人では13%、10〜12時間の人では40%、認知症リスクが高いことが示されました。

また、睡眠時間と認知症リスクとの関連はJ字型の傾向(トレンド)があることがわかりました。

睡眠時間の変化については、5年間で睡眠時間がほとんど変わらなかった人と比べて、睡眠時間が2時間以上長くなった人では認知症リスクが37%高いことが示されました。

睡眠時間は短くなった人での認知症リスクに全体として差はありませんでしたが、元々の睡眠時間が7時間未満だった人では2時間以上短くなると、認知症リスクが56%高いことが明らかとなりました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕