偽る脳力12 危機感の表れの口癖

不安を感じているときには、それを打ち消して、自分を誇示するような言葉を出すというのは、よくあることです。初めのうちは意識して口にしていた言葉が、いつしか無意識に出るようになり、口癖になったときには、本当に不安なことにはならない確信があるのか立ち止まり、振り返ってみる必要があるということを強く感じさせられたことがありました。

それは海外から食品を輸入販売する会社の代表で、非常に高価格であるのに国内シェアの70%以上を占めるという勢いがありました。本業は別にあって、食品や工業製品の原材料を独占的に輸入販売していました。しかし、グループ全体では売り上げの半分以上が特別な食品で、これを継続的に販売できるかどうかが、グループの命運を握っていました。

その代表が口にしていたのは“絶対に”と“あり得ない”で、新たな展開をするときには「絶対に大丈夫」、周囲から不安の声があったときには「そんなことはあり得ない」を連発していました。口癖なのかと思っていたら、他の事業の会議に立ち会ったときには“絶対に”も“あり得ない”も出てこないので、よほど不安を感じていて、それが気づかれないように、自分を鼓舞するために口癖のようになっているのではないかとの不安も感じたものです。

その不安は不幸にして当たってしまい、契約が打ち切られて、他の会社が販売することになりました。国内シェアの70%という大きな市場規模があるだけに、他の会社にいくことは「絶対にあり得ない」と語っていたのですが、私が知っていることだけでも契約を打ち切られるようなことは4つもありました。

契約を打ち切られるような行為も、すべては売り上げを伸ばし、社員のためにもなることだとは聞かされてはいたものの、普通であれば外部にはバレないように行い、絶対に大丈夫な状態のはずでした。

ところが、海外の会社から契約打ち切りを告げられ、その理由としてあげられたのは私が知っていることを上回っていました。そのようなときこそ、善後策をとるために団結力を高めることが重要であるはずなのに、代表は犯人探しというマイナスの仕事に血道を注ぐようになりました。自分がしたことよりも、苦境に陥らせた原因を外に求めようとしました。これはマイナス面の「偽る脳力」が発揮された事例です。

半年後に社員の1人が、退社した直後に、新たに契約先となった会社に移ったことから危機的状況になった原因を知ることになるのですが、それを代表は自身のブログに書いて批判に終始していました。

“絶対に”“あり得ない”と口にするようになったのは、不安を打ち消したかったからで、その不安は自分が原因であると気づかせてくれる脳力があったはずなのに、それを活かせなかったという他の方に見習ってもらいたいような出来事でした。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕