「医師は栄養学を学んでいないにも関わらず、詳しい感じで話す」というのは、臨床栄養の世界で、よく耳にしていたことです。それは栄養学の専門家である医療機関の管理栄養士からだけでなく、医師も口にしていました。
そのような批判的な言葉が交わされるのは、医師が栄養学を学ぶ機会となっている日本臨床栄養学会と、医療機関で働く栄養士と管理栄養士が医学を学ぶ機会となっている日本臨床栄養協会の集まりの場でした。
栄養学は健康づくりの基本であり、治療の基本にもなっていることから、医師は栄養学について充分に学んでいると思われがちです。それが一般のイメージかもしせませんが、医師を養成する82大学のうち栄養学の講座があるのは3分の1ほどです。
それも必修ではなく、選択科目です。医学教育の中で学ぶのは栄養不足と疾患の関係で、多くの人が医師に期待する栄養摂取によって健康になるための知識を学んでいるわけではありません。
そのために医師になってから栄養学を学ぶことになるわけですが、管理栄養士がいて、医師の指導によって栄養管理(いわゆる病院給食)が行われている医療機関なら実践の中で学ぶこともできます。
しかし、その機会がない医師が多いのも事実です。そこで誕生したのが日本臨床栄養学会であり、学会と連動して活動する日本臨床栄養協会です。
私が臨床栄養を実践とともに学んだ病院栄養管理の研究所は、日本臨床栄養協会の立ち上げと運営に尽力した病院の現職と出身者が主要メンバーでした。日本臨床栄養協会の副会長を常に輩出していました(会長は医師が務める慣例)。
研究所の代表の管理栄養士は主要な国立病院の栄養管理室長を歴任して、一時期は日本栄養士会の理事長も務めていました。その代表の最大の貢献とされているのは、医療機関における栄養指導を管理栄養士の役割とするように尽力したことです。
そのために、栄養指導によって保険点数がつくのは管理栄養士だけになり、医師は栄養指導しても収益が得られません。医学部で栄養学を学ぶ機会が極めて少ないのは、その制度のためなのか、学んでいないために栄養指導は管理栄養士の役悪となったのか、その判断はいまだにつけられていないところがあります。
管理栄養士は医師が栄養学を基礎から学んでいないことを理解していながら医師の指示を受けることに「偽る脳力」を用いていて、医師は充分な知識がないままに指示をしていることに「偽る脳力」を用いているという状態は今も続いています。
そのような状態のきっかけともされる管理栄養士に学び、日本臨床栄養学会と日本臨床栄養協会の仕事をしてきた中で、いまだに健康であり続けたいと願っている方々に医学と栄養学がマッチした情報が伝わっていないと実感しています。
その解消のために、医師とも医療機関の管理栄養士とも自分の感情を抑えながら付き合い、今も「偽る脳力」に磨きをかけ続けているところです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕