自らの考えがあっても、それを隠して振る舞うというのは普通にあることで、仕事において利害関係があるときには本音が知られないようにするのも、また当然のようにあります。
初めのうちは意識してやっていたことが、長く続けることによって、いつの間にか表に見せていることが本来の考えとは違っているのに、それが本来の姿のようになっていくこともあります。それも「偽る脳力」によって動かされた結果ということもできます。
これはビジネスの場では当たり前のように目にすることです。経営者や上司に反発して、本来なら労働組合側に立つような人が、組織の中に取り込まれ、そこでよい思いをしているうちに考えが変わっていくということです。
組織に反発する人の気持ちがわかるだけに、それを抑えることにも“脳力”を発揮して、組織にとって重要な人の“能力”をつぶすという結果にもなりかねません。
その一方で、同じように組織の中にあって、上司に引き上げられていっても、自らの考えを変えずに、最終的に組織の改革に成功した人も見てきました。会社や団体でも力が発揮できる立場になるまでビジネス与党として振る舞うということで、こういった方から「偽る脳力」の高さを学ぶことができました。
ビジネス与党というのは、実際の気持ちは野党であっても、力を得るまでは与党に属していることを指していて、よく例にあげられるのは政権交代を果たした政治家で、要職を占めたほとんどの方は与党時代に出世争いで上位を走っていました。従順な振りをして実は考えを変えなった人たちで、政権交代の3年間で大臣を経験した4人は与党時代から近くにいて見てきたからわかったことです。
ビジネス与党は“与党内野党” と混同されることがあります。与党内野党は連立政権で与党第一党と対立して野党的な立場を取る第二党を指しています。ビジネス与党は、裏の気持ちはどうあれ与党として同じ行動を取っていて、本来の気持ちの通りの行動ができる立場になるまで誰の目にも与党に見えるように行動します。
本来の気持ちとのギャップと自分なりに戦いながら、実力を高めることに力を注いでいくことから、「偽る脳力」が鍛えられていきます。よい条件の中で、相手にも気づかれることなく自分を変えないように動き続けることは、相当の脳力が必要になります。
これは“ミイラ取りがミイラになる”ということとも違います。相手を変えようとして懐に飛び込んだのに戻ってこない、相手に働きかけようとしたのに相手に取り込まれてしまうのがミイラになった人です。
よく「役職が人を作る」と言われますが、これは「役職が人を変える」という例で、「偽る脳力」が低かったのか、元から「偽る脳力」がないのに勘違いした行動をした結果だと考えられています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕